Diary of Gallery TSUBAKI

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7月3日

お客様に薦められて近くの画廊の個展を見に行く。
まだ20代の作家で、17歳のときに個展をして以来2回目の個展だそうだ。
驚いたことに、殆どの作品に赤マークが付いている。
若い作家にしてはかなり高い価格なのだが、この時節にこれだけ売れているのはすごい。
路線価が大幅に下落したとか、失業率が増加したとか、景気のいい話が少ないだけに、ご同業が売れているのは心強い。
私のところも幸い大作がすべて売約となり、こうした時期に買っていただけるのは本当に有難く、多分その画廊さんも同じ思いでいるに違いない。
以前に書いたかもしれないが、昔勤めた画廊の社長に、空襲の最中でも絵は売れたとの話を聞いたことがある。
それほど極端ではないが、美術愛好家にとっては、好きな作品を手に入れるにはご飯一膳減らしてもという気持ちなのかもしれない。
そうした人たちに支えられて、40年を超えてここまで仕事を続けることが出来たことに改めて感謝である。

7月4日

来週の土曜日に長男の結婚式があって、長女夫婦も向こうの両親と子供を連れてシドニーから帰国。
孫には正月以来の再会となった。
息子達の結婚式の引き出物を綿引明浩氏にお願いして素敵な版画を作ってもらった。
額装された版画を一家総出で包装をしなくてはならず、我が家は作業所と化している。
人数が多く、大学の同級生が社長をしているTホテルで式・披露宴をすることになったが、気を遣ってくれることもあってか、やけに打ち合わせが多い。
嫁さんや家内はてんてこ舞いの毎日である。
有難い事に、私どもの画廊で長年お世話になっている元アナウンサーのK様に司会をしていただくことになった。
多忙の中を息子達やホテル側と再々の打ち合わせをしていただき、恐縮至極である。
ホテル、司会、引き出物と他にも諸々ご縁のあった方々のお力添えで式を挙げることになり、どちらにも足を向けては寝られず、寝不足の日が続きそうである。

7月7日

今日はいきなり強い日差しの暑い日となった。
展覧会も今週土曜日までとなり、この暑さで見に来る人も少なくなるのではと心配である。
京橋界隈のイベントとしてこの界隈の多くの画廊が参加しているが、盛り上がりはいま一つのように思う。
長い間のマンネリ化と私も含めて参加者の熱意も欠けてきたのが大きな要因のように思う。
来年はこのイベントに熱い思いを寄せるメンバーだけで再スタートし、中心で動く人も若い方たちにお願いし、新しい方向を目指すことになっている。

そのイベントの一環であった京橋界隈オークションも、昨年からは私ども単独でギャラリー椿オークションと名前を変えて実施したが、こちらは引き続き単独で開催することになっていて、今回は一ヶ月早く、7月24日から29日の5日間を予定している。
土、日も開けているので多数のご来場をお待ちしている。

7月8日

毎日、画廊や美術館からの案内状やカタログ、ポスターが束になって届く。
その上、ここ数年は海外を含めてオークション会社からのカタログも頻繁に届くようになった。
小さな机には見きれないそうした葉書やカタログが山のようになって、収拾が付かなくなっている。
片付けられない男、捨てられない男で、先ず二度と見ることもない展覧会のカタログやパンフレットも後生大事に取ってある。
逆に考えると、私のところで一生懸命作ったカタログやパンフも、送られた人の机の山の中か、ゴミ箱行きの運命にあるということ。
何と無駄なことと思う。
どうせ作るなら、捨てられないように資料として残せるものをと思うが、それには先立つものが必要となる。
私のところでも作品集や版画集を作ることはあるが、これも専門の本屋とは違うので、展覧会が終わってしまうと、倉庫に山積みとなってしまう。
ゴミ箱行きも嫌だが、金をかけて作っても倉庫の肥やしとなるのも画廊にとっては辛いものである。
そうした作る側の辛さがわかるだけに、私は来たものを捨てずに残すことになってしまう。
結果送ってきたものは机の上に、作ったものは倉庫にと、どちらにしても山積みされて収拾が付かず、家内から何とかしろと責められる毎日である。

7月10日

冬のシドニーから来た長女一家のうち、向こうの祖父と子供が夏の日本で風邪をひいてしまったようだ。
今年の梅雨は雨も少なく、涼しい日もあってか過ごしやすく、いつもに比べて私はすこぶる体調はいいのだが、長旅の疲れだろうか。

昨日はインドネシアの画廊が訪ねて来て、私どもの作家の作品を予約していった。
先の北京でも小谷元彦の大きな立体作品や日野之彦の大作をまとめて買ったのもインドネシアのコレクターと聞いていたが、どうやらインドネシアにも日本人作家の人気が飛び火していったようだ。
不景気とはいえ、格差社会が顕著なアジア諸国では、お金持ちのコレクターはいたって元気で、こうして海外まで出かけていっては作品を集めているのには驚かされる。
先日もアジアではないがイギリスの方がはじめて訪ねて来て、大作を買ってくれたが、本当にフットワークがいい。

8月に台北のアートフェアーがあって、是非日本のコレクターに来て欲しいとの要請があり、お声をかけさせていただいているが、日本の方は皆さん腰が重い。
日本のフェアーと違って、VIP待遇で色々な特典もあるので、もしご希望の方がいれば紹介をさせていただく。
気楽に出かけて下さるといいのだが。

7月13日

先週土曜日に無事息子の結婚式も終わり、ほっと一息。
お客様でもあるK様の名司会により、心に残る式となり、厚くお礼を申し上げたい。

翌日は都議選、自民党から出馬し、過去3期トップ当選をしていた高校時代の友人も、逆風の嵐の中何と落選。
この選挙区は8人定員で、悪くても落ちることはないと思っていたが、まさかの落選で私も大ショック。
彼が落ちるくらいだから、来る衆議院選の結果は火を見るより明らか。
民主党政権誕生でお手並み拝見となるが、政権獲得のための耳障りのいい施策ばかりで、将来の国家展望や国家戦略が全く見えてこないのが気にかかる。
私どもの立場としては是非とも文化の保護育成に力を注ぎ、世界に誇る文化国家を目指して欲しいとと願う。
美濃部都政のようなばらまきによる財政破綻や村山、細川政権ような腰砕けだけは繰り返さないでとも願う。

7月15日

梅雨明けでいきなりの猛暑。
月曜の夜は隅田川を屋形船で下りながら、古典落語を聴くといった粋な会に出かけた。
川風に吹かれながら納涼のひと時をと思ったが、いやー蒸し暑いこと、そよりとも風は吹かず、次々と出てくるてんぷら責めと相俟って、噴出す汗を拭いながらの落語会もこれまた乙なもの。
お呼びしたのは、円楽門下の三遊亭竜楽さん。
この方はかなりのインテリで、母校の中央大学で教鞭をふるい、海外に出かけては英語、フランス語、イタリア語で落語を語り、朝日新聞にエッセイを連載するといった幅広い活躍をしていて、お顔も色白で落語家にしておくのはもったいない知性あふれる好男子。
大学の落研出身のの友人が前座を務めた後、いよいよ真打登場。
暫し暑さも忘れて、間近で聴く古典落語に酔いしれ、楽しい宵を過ごすことができた。
何だか古典落語に嵌りそうになってきたぞ。

7月16日

明日から台湾行き。
向こうの画廊で私どもの作家7人のグループ展 「Lucid Dreams」が始まる。
韓国に比べると台湾の画廊は小さいところが多いが(それでも日本に比べればとてつもなく大きい)、会場のAアートは昨年出来たばかりで、白亜の大理石が敷き詰められた大きなスペースを持っている。
出品する作家さんも3人一緒に行くことになっていて、おいしい食事とマッサージを楽しんでこようと思っている。

台湾から帰ってくると恒例のオークションが私のところで始まる。
すでに500点近くの出品リストが出来ているが、追加作品も多く、600点を超える出品となりそうだ。
多数の中からお好みの作品を廉価でお選びいただけるいい機会なので、暑気払いを兼ねて多数のお越しをお待ちいたしている。
お隣のギャラリー川船でも21日から25日まで物故作家中心の展示即売会があり、後半二日は私どもの会期とぶつかることもあり併せてご覧いただければ幸いである。

7月22日

台湾から帰ってきました。
夜でも30度近くあって暑さには参ったが、展示も素晴らしく、おいしいものをたくさん食べて、 作家さん達にも喜んでもらい、楽しい4日間を過ごすことができた。
行き帰りもハイヤーをAアートさんが用意してくれていて、士林の夜市に案内してくれたり、オープニングパーティーの後も北京ダックのお店に連れて行ってくれたりで、恐縮するくらいのもてなしを受けて、どうやってお返しをしていいのやら?
オープニングもそれほどたくさんの人ではなかったが、熱心に見ていただき、何点かは予約が入ったようだ。
来月の台北のアートフェアーの直前まで開催予定なので、いい報告を聞いて、フェアーの売り上げに繋がることを期待したい。

7月24日

いよいよギャラリー椿オークションが今日から始まる。
所狭しと飾られた700点近くの作品で画廊の様相は一変。
毎年のこととは言え、よくぞこれだけの作品があるものだと感心する。
どの作品もお客様が所有していたもので、それぞれにお客様の思いがこめられているが、故あって手放されることになったものばかりである。
お越しいただくお客様のお目に止まり、今一度作品に息吹を与え、お手元において蘇らせていただければとの思いで開催させていただいている。
このオークションをやっていていつも思うのだが、ディーラ−主体のオークションだとどうしても限られた市場価値のある作家の作品ばかりを扱うことになり、その他大勢の作家の作品は極端に言えば評価零となってしまう。
ということは多くの作品はごみ同然となってしまうわけである。
作品の内容とは関係なく、業者の共通項ばかりを追い求めてしまう、主体性のないこの業界の体質そのものを露呈していることになる。
ここ数年若手作家にスポットライトが浴び、それぞれの画廊が独自の作家を押し出していく流れが顕著となっているが、共通項を求める業界といずれは矛盾が生じることになるだろう。
私どものオークションや以前に社長を務めたJAAオークションなどで、熱心に作品を眺め、値踏みをするお客様たちを見ていると、お客様主体の自分の好みと判断で作品を取引する場がもう少しあってもいいのではと思う。

7月25日

梅雨に逆戻りと思っていたら、突然の真夏の暑さ。
オークションにお見えいただく方もこの暑さの中をお越しいただくわけで、大変に有難い事である。
そんな中、お越しいただいたお客様のお一人から、何と東京ドームの巨人戦のチケットをいただいた。
以前にブログで巨人の大ファンと書いたことを覚えておいておられたようで、何よりのお心遣いと大感激をしている。
家内から内々のことまで書き過ぎと叱られているが、こんなこともあるとますます調子に乗ってしまいそうだ。

7月27日

ワンピース倶楽部というのがある。
代表のIさんとは昨年の台北のアートフェアーで初めてお会いした。
お話を聞くと、アートソムリエのYさん同様に、アートを見るだけではなく、現代アートマーケット拡大のために、アートを楽しみながら、最低一年に一作品を購入することを決意したアートを愛する人達の集まりを主宰しているとの事。
私達にとってはYさん同様に願ったりかなったりの集まりである。
そのメンバーになったばかりの方が先日、私どもで作品を購入してくださった。

この倶楽部のルールというものがあるのでご紹介させていただく。

一、ワンピース倶楽部の会員は、一年の間に最低一枚、現存するプロの作家の作品を購入します。

二、ワンピース倶楽部の会員は、自分のお気に入りの作品を見つけるために、ギャラリー巡りや、美術館巡りなど、審美眼を高めるための努力を惜しみません。

三、ワンピース倶楽部の会員は、各年度の終了したところで開催される展覧会で、各自の購入作品を発表します。

以上、上記のルールを守りながら、ゆるやかに、楽しくアートを楽しみましょう。

といった何とも頼もしい集まりである。
もし入会をご希望の方がいたら紹介をさせていただく。

7月28日

ギャラリー椿オークションも今日で終わり。
最初の三日が猛暑、昨日今日とは雨模様のなかをお越しいただいた皆さんには心よりお礼を申し上げたい。
不景気の影響もあってか、例年に比べると若干来場者は少なかったが、それでも熱心な方に多数入札をしていただき、落札点数は前年を超えそうな勢いである。
とはいえ、出品昨品は700点もあり、全て落札とは行かないだろう。
残った作品はアフターセールといって、お問い合わせをいただければ、最低価格にて、先着順にお求めいただけるので、落札結果を参考にしていただきたい。
終了後、一週間引渡しと片付け作業で画廊は慌しくなるが、作品を見てみたいという方のお越しもお待ちしている。

7月30日

オークションも終わり、今度は後片付けと引渡しに終われる毎日で、画廊は倉庫状態となっている。
お越しになるお客様の中にはあわや店じまいかと思われる方もいるのではと心配する。

8月7日に筑摩書房よりアートソムリエで知られる山本冬彦氏の著作「週末はギャラリーめぐり」が発刊される。
仕事の傍ら画廊めぐりを始めて30年の余、集めた作品も千点を超えた著者が運命の一点に出会うノウハウを披露。
資産とか投資を抜きにして、ひたすら画廊を巡り、名もない作家たちの作品を集めた経験から、見る楽しみだけではなく買う楽しみもあると説く。
本の帯には偶々だが、私どもの会場写真が写っていて、その中に著者よりも私どものスタッフと作家の岡本君が大きく写っているのには驚かされた。
8月3日には出版記念パーティーが銀座の柳画廊で開かれるので今から楽しみにしている。
本の紹介も発刊になったらホームページでお知らせさせていただく。

7月31日

コレクターの山下透氏が新潟の砂丘館で8月23日までコレクション展を開催している。
30年にわたるコレクションの集大成とも言うべき展覧会で、遠く新潟だけで発表するのはもったいないような気がする。
私どもとも長いお付き合いをさせていただいており、また氏が主宰をされた市民アート活動を目的とした「アートNPO」にも参加させていただいた。
今回はそのコレクションの中からその原点となったルオーの版画や草間、李、白髪、といったここ数年世界的評価が定まったものから小野木学、荒川修作、菅井汲、流政之といった現代美術作家、若手作家まで多数の作品が出品されている。

パンフに我がコレクション人生「好きな絵に囲まれ思索する、至福のひととき」と題してコレクションの思いを綴っているので紹介させていただく。

私は今、書斎&サロンで、マーラーを聴きながら読書をしている。
流れる曲はルキノ・ヴィスコンティの映画「ベニスに死す」でも使われた交響曲5番第4楽章アダージョである。
好きな絵に囲まれ、珈琲を飲みながら思索する、最高に贅沢なひとときだ。
コレクション人生も30年を超える。
何故絵など買うようになったのだろう。

昭和40年代前半に損保業界に入り、高度経済成長時代を生きてきた。
仕事は充実感もあり、満足できる会社人生であったが、もう一つの自分の世界を築き上げたい願望を常に心の隅に感じていた。
そんな時である、ブリジストン美術館でルオーの「郊外のキリスト」を見て感動したのは。
それからである、私のルオー探索と現代美術コレクションが始まったのは・・・

特にコレクション哲学などという立派なものはないが、私にとってはの美術品コレクションを一言で言うなら、”心の贅沢と知的な冒険”ということになるだろうか。
芸術とは崇高かつ、ある意味では難しいもの。
西洋の古典絵画について言うなら、ヨーロッパの歴史観やキリスト教に関する知識が必須であり、学ぶことも重要である。
一方、現代美術は作家自身の生き様の表出であり、作品鑑賞には人間理解や想像力、時代認識が必要と言える。

私にとっての絵画コレクションとは、”人生探求の旅”なのかもしれない。
私は表面的な美しさより、知的で深い精神性を感じさせる絵に魅かれる。
絵の見方も、目に見えるものを見るというより、絵全体を包む空気を感じたり、作家の思いを読み取ったりすることを楽しみにしている。
ジャコメッティの彫刻に漂う空気感に魅かれ、長谷川等伯の「松林図屏風」やリ・ウーハンの作品に余白の美しさを感じる。
”絵を読む”とは”思索すること”。
もっと言うなら、”本当の自分と向き合うこと”であり、”人間や人生について考えること”に他ならない。

コレクター道というものがあるとすると、その王道を歩んだコレクション人生といえるだろう。

8月4日

先日の日記でご紹介をした山本冬彦氏の著書「週末はギャラリーめぐり」の出版記念パーティーが昨夜開かれた。
混むのではと早めに出かけたが、来るは来るはで、あっという間に会場は超満員。
聞いているだけでも200人を超える人が来場予定というが、多分それを超える数の人が来るのでは。
あまりの人数に予定を早めて、山本氏の挨拶と会場を提供した柳画廊の野呂社長の乾杯の音頭が始まってしまい、後から来た方がいつ挨拶があるのと私に尋ねてくる始末で、その混雑振りがうかがえる。
私もあまりの人混みに早々に引き上げてきた。

本の方は一般の方に美術を見て楽しむだけではなく、買って楽しんでもらいたいとの主旨で、「観るアートと買うアート」、「美術品の購入知識」、「画廊めぐりの楽しみ方」、「コレクションのすすめとコレクターの楽しみ」、「芸術家をとりまく現状と支援」の5章に分かれ、アートに関心のある方、美術品を買ってみたい、画廊を覗いてみたい、美術を別世界だと思っている人にも是非読んでいただきたい本である。

 山本冬彦 「週末はギャラリーめぐり」 筑摩書房・ちくま新書 定価700円

8月7日

昨日はお客様のH様からいただいたプラチナチケットで巨人・ヤクルト戦を観戦に。
バックネット裏の特等席ということで、一緒に行った娘は大感激。
私が観ると必ず巨人が負けるというジンクスも、今回だけは通じず、巨人の勝利となり、娘ともども大興奮で帰ってきた。
明日からは一週間夏休みをいただき、17日から開けさせていただく。
休み明け直後に予定をしていたコレクション展は若干延期となり、9月5日から19日で開催させていただく。
私ども取り扱い作家の初期作品から物故作家まで名品珍品が並ぶので乞うご期待。
皆様も暑さに負けず元気にお過ごしいただきますように。

8月17日

夏休みも終わり、今日から画廊も仕事を再開。
今週はソウルのアートフェアー用の作品を発送したり、来週早々に始まる台北のアートフェアーの準備でおおわらわ。

そんな中、オークション会社の新たな役員となった方が挨拶に見えた。
オークション会社とプライマリーギャラリーが手を携えて、新しいアートマーケットを構築していきたいとの構想をもってお出でいただいたが、それは水と油ですとお答えした。
近代美術の低迷、コンテンポラリーアートのバブル崩壊などからオークション会社の撤退縮小が急務となり、実際に人員削減、本社移転、役員交代などこの夏オークション会社は夏休みどころではなかったようだ。
そうしたこともあって、我々画廊と一緒にマーケットの再構築を考えようとの気持ちはわからないではないが、所詮オークション会社が作家を長い目でサポートするはずもなく、地道に手数料商売に徹し、その時代時代に適応した作品を扱うといったオークション会社本来の仕事を目指すべきと申し上げた。
また、海外や日本のオークション会社の何社かが一つになって、それぞれの得意分野を活かしつつ、世界市場に打って出ることを考えなくては、これからのグローバル社会では生き残れないのではと申し上げた。

あるコンテンポラリーアート専門誌が「アジアのアートマーケット」の特集を組むということでアンケートを送ってきたが、どうやらメディアも日本を含めたアジアや世界のアートマーケットに視点が移ってきたようだ。

8月19日

展示施設を持つ企業から依頼をされていた小林健二の旧作「サターン・ラジオ・ステーション」をようやくお客様から譲っていただくことになった。
1993年に制作されたラジオタイプの最初の作品で、美術ファンだけではなく科学好き、宇宙好き、ラジオ好き熱中中年を虜にした作品である。
古いラジオを模した鉛の箱の小窓から青白く光りながらゆっくりと回転している土星が垣間見える。
それはあたかも悠久の宇宙空間の中に自分自身が漂っているような錯覚に陥る。
いい機会なので9月5日から始まるコレクション展にも展示させてもらうことにした。
一人で楽しむより多くの方に楽しんでいただきたいとの先のお客様の意向も大事にしていきたい。

8月20日

開館10周年記念「響きあう庭」東京オペラシティーコレクションを見に行ってきた。
30年にわたってお付き合いをさせていただいている寺田小太郎様の寄贈によるオペラシティーコレクションの中から、その骨格となる特徴的なコレクションが選ばれ展示されている。

晩年の傑作で寺田コレクションの根幹をなす難波田龍起の「生の記録3」はその晩年を知る私には何度見ても胸に迫る圧巻の作品である。
同じくコレクションの根幹となる次男史男の作品も、私が30年前に企画した難波田史男・清宮質文・小山田二郎の三人展が寺田様と史男作品の最初の出会いだと思うと感慨深いものがある。
その後美術館への寄贈を念頭に収集した東洋的抽象画「白・黒」の作品も、お手伝いさせていただいた何点かが展示されていて、その当時のエネルギッシュな姿が思い出される。
第2室の屏風絵は私の専門外であるが、おそらく寺田様の一番の好きな世界は日本的で詩情あふれる自然の情景を描いた作品ではないだろうか。
そんな思いが作品からひしひしと伝わってくる。
最後にここ数年積極的に収集されている若手作家の作品が並ぶ。
山本麻友香・富田有紀子・伊庭靖子といった私がほれ込んだ作家達の作品が並んでいて、こうした作家を応援していただいていることに改めて感謝である。

寺田様は次のように言う。
「このコレクションは、あくまで私個人の目と頭でつくったものですから、偏りの多い癖のあるものだと思います。
しかし、ある面それが面白いのではと思っています。」

個人コレクションとはそういうもので、流行や世間の評価ではなく、自分の好みに忠実であることではないだろうか。
一見多様に見える寺田コレクションも私には叙情性豊かな作品を中心にした一貫したコレクションだと思っている。

9月27日まで東京オペラシティーアートギャラリーで開かれている。

8月21日

休み前に韓国のテグアートフェアーの事務局の担当者が訪ねて来た。
11月に開催されるフェアーにぜひ参加をして欲しいとのこと。
今年のスケジュールは既に決まっていて、そこにテグが入り込む余地がないことを伝えたが、参加の条件を聞いて心が揺らいだ。
テグは丁度日本で言うと名古屋のような都市で、ソウルと釜山の中間に位置し、美術も盛んなところで、画廊の数も多く、有力なコレクターも多いと聞いている。
来年にはテグに現代美術館が出来ることもあって、テグ市の肝いりで今回のフェアーは開催されることになっていて、ブースフィーも驚くほど安く、その上海外の画廊にはホテルや通訳の提供、韓国内の輸送の便宜など至れり尽くせりとなっている。
私も実はテグとは縁が深く、そこの有力画廊の二軒とは以前から取引があり、8年前に開かれたKIAFの前身であるテグアートフェアーにも日本で唯一招待され参加したことがあった。
更にジュリアン・オピーやダミアン・ハーストのコレクションで知られるテグのリーアンギャラリーで私どもの作家の4人展が同じ11月に開催されることもあって、急遽参加する事にした。
近隣の親しくしている画廊にも声をかけたところ、急な話にもかかわらず、数軒の画廊も参加をすることになった。
12月までこちらでの展覧会の合間を縫って、韓国・台湾の企画が目一杯入ってしまったが、出品をしてもらう作家さんにも頑張ってもらって、出て行くからには何とか成果をあげて帰ってきたい。

8月22日

先日ある画廊さんが見えて、景気後退後全くお客様が見えなくなってしまったと嘆いていた。
その画廊さんは今風のトレンディーな作家達を取り上げ、ここ2,3年業績を上げてきたところである。
まだキャリアも浅く、長い間の積み重ねのお客様がいないことが大きな要因ではと言っておられたが、その通りかも知れない。
海外と日本の売り上げの比率はとも聞かれ、7割が今のところ日本での売り上げではとお答えした。
そうしてみると私のところは長いお付き合いをさせていただいているお客様に助けられていることがよくわかる。
他の画廊さんにも聞いたようで、現代美術を長い間やってきた老舗画廊は若手コンテンポラリーアートにシフトしたこともあって、9割が海外需要だそうだ。
コンセプチュアルアートを中心にやってきたこれまたキャリアのある画廊は今の海外の流れとは少し違うポジションにいるので、国内が8割とのこと。
それぞれの画廊の方向性で一概には言えないが、画廊の仕事はそう一朝一夕にはいかず、作家の仕事と同様に積み重ねの結果であると思っている。
ただ時代の流れというのはあって、その時代に対応していかないと新しい顧客層をつかむことは出来ない。
私の悩みも7割の殆どが今までのお客様で、国内での新しいコレクター層を掘り起こすことがなかなか出来ず、その部分を海外に頼っている。
先の画廊のように大きくシフトしてしまえば、今までのお客様とのお付き合いもなくなってしまうし、トレンドだけを追いかけていくとブームが去れば後ろに誰もいなくなってしまう。
美術の価値観が大きく変わろうとしている現在、そうした岐路に立つ我々の悩みは尽きない。

8月26日

今晩から台北アートフェアーに出発。
展示のため、スタッフや作家さんは昨日から出発していて、私だけ社長出勤。
30日の衆議院議員選挙は日本にいないので、期日前投票を済ませてきた。
投票場もたくさんの人がきていて、選挙への関心の高さがうかがえる。
前にも書いたが、各政党が国民のために耳障りのいいことを言うが、これからの国のあり方とかビジョンについて全く触れていない。
こんなことを言っても票につながらないからだろうが、高所から大局を俯瞰する政治家はいないのだろうか。
それ以上に、政党がきちんとした国家戦略を示すべきではないだろうか。
これから行く台湾や韓国、アジアの小国・シンガポールやマレーシアといった国もこれから国家としてどう生き残っていくかの方向性や戦略を明確に打ち出しているように思う。
選挙結果も異国で知ることになるが、どちらに転んでも目先のことであーだこーだと言い合って時が過ぎていくようにしか思えないのが悲しい。

8月28日

昨日から台北アートフェアー開幕。
先の台北ホテルアートフェアー、つい先日まで開催されていた台北のギャラリーでのグループショウの結果が思わしくなく、どうなる事やらと恐る恐るのふた明けであったが、思わぬ好スタートとなった。
いきなり門倉直子の作品に人気が集まり、大きい作品が売れないことを予測して持っていった小品を含め展示された作品はすべて売れてしまった。
いつも売れる常連さんはそれほどでもないのだが、どういうわけか彼女の作品に集中。
大作の注文もいくつか入り、門倉人気で始まることとなった。
夜には他の作家さんもいくつか売約となり、予想外の展開にただただ驚くばかり。
今日は早めに近くのブースを回ったが、他のブースでも売れているのはほとんど日本作家ばかり。
それも去年も出展している画廊に赤印が多いようだ。
昨年苦戦した画廊も今回は初日から売約の印が付いていて、私がいつも言っている積み重ねが大事ということを痛感する。
私のところも今回買っていただいたお客様はすべて前回買わないまでも見に来ていただいた方ばかりで、一回だけの結果で判断してはいけないという証である。
それにしても経済が厳しい中、明るい兆しは喜ばしいことである。
来月のソウルも不安で一杯だったが、韓国から来た人も美術市場は上向いてきたので心配ないと言ってくれているが果たして?

8月30日

日本はどうやら台風が来ているようだが、台北は今日も快晴、気温も毎日34度を超えるが7月に来た時よりは朝晩が涼しく感じる。
昨日土曜日は大勢の人が会場に詰めかけ賑わった。
各ブースも売約の印が目立つようになった。
私の感じでは去年より売り上げも多いのでは。
買わないまでも値段や作品のモチーフについて尋ねられることも多く、通訳を頼んだシュウちゃんも大活躍。
とてもかわいらしい子でみんな日本人と間違え、中国語を話すとびっくりしている。
開幕前の不安な気持ちも払拭され、夜はこちらに来ると必ず行く台湾家庭料理屋「呂桑食堂」に出かけて、庶民的な中華料理を満喫。
その後すぐそばにある氷屋さんの大盛りのマンゴアイスを食べに行く。
ここはいつも行列ができていて、地元でも人気のお店だ。
その後これまた定番の中国茶のお店に行き、美味しい中国茶で身も心もいやされる。
今日は日曜日、昨日同様に大勢の人が来場し、大忙しの一日となりそうだ。

8月31日

昨日の衆議院議員選挙は民主党の圧勝となった。
ホテルのテレビで眠い目をこすりながら速報を見ていたが、民主が300議席を超えたところでダウン、朝つけっぱなしのテレビの音で目覚めた。
果たして今後の日本はどういった方向に進んでいくのだろうか。
世界は期待感からか円高に振れたため、私たちのように海外で集金したドルの換金はしばらく様子を見なくてはならなくなった。
財源の明確な手当てもないままのばらまきでは、しばらく日本経済は停滞し、円安になると見ているのだが。
昨日の日曜日も大勢の人で賑わったが、ほとんどが若い人で、ポストカードばかりが売れる一日となった。
夜は台北の画廊の方と若いコレクターの方に昔ながらの中華料理をごちそうになり、そのあとはマッサージにも連れて行ってもらうといった相変わらずのもてなしにひたすら感謝である。
その中華料理店は会場のすぐそばにあり、周囲がおそらく昔の防空壕だと思うが、草に覆われた壕の間を抜けると、戦前の瓦屋根の古い建物が並び、その一軒をレストランにしているが、看板も小さく、地元の人に連れて行ってもらわなければ、まずわからないだろう。
おいしいもの食べて遊んでいるように思われるが、ちゃんと仕事をしてますよ。
今日も横田尚の大作が売れました。

9月1日

いよいよ最終日となった。
朝から大勢の人で賑わい、アートフェアーへの関心の深さがうかがえる。
売上のほうは昨夜ご馳走になった雑誌社の社長の話では台湾の画廊は昨年より悪いが、逆に日本の画廊はすごくいいように思うと言っていた。
確かに日本の画廊のブースはかなり成績がいいようだ。
先ほどは多分台湾の首相だと思うのだが画廊協会のチェアマンと一緒に新聞記者の前で挨拶をさせられ、その後並んで記念撮影、超緊張。
日本と台湾の文化交流がより深まることを期待するというようなことを話したが、通じたかどうか?
残りも僅か、商談中の作品がいくつか残っているが、終わりまでに纏まることを祈る。

9月3日

昨夜帰国。
早めに始めたつもりの撤収も、早々に帰る他の画廊さんを尻目に最後まで居残りでさすがに疲労困憊。
予想外の売り上げで気分はいいが、最後まで残る羽目になった心残りの出来事が一つあった。
最終日、大きな高木まどかの立体作品に予約がはいった。
と私は思っていたのだが。
確かにリザーブと聞こえたし、自分でメールアドレスまで書き、友達が車で取りに来るといったように聞こえたのだが。
丁度、スタッフと通訳の女性がブースを離れていて、拙い語学力の私が対応したのがいけなかった。
待てど暮らせど取りに来ない。
大きい作品だけに片付けるのを最後まで躊躇していたが、結局あきらめることに。
後でメールで確認することにしたが、もしや大きな車で遅くにとりに来たのではと思うと、気になって仕方がない。
語学力の無さをつくづく痛感させられる出来事であった。

9月4日

昨夜はオーチャードホール開館20周年記念ワーグナー楽劇 「ワーキュレー」 演奏会の招待状をいただき出かけた。
台北の翌日ということもあって、疲れから途中で居眠りをするのではないかと心配したが、眠るどころか出演者の圧倒的な歌唱力に思わず引き込まれ、2時間半の長丁場を存分に堪能することが出来た。
長男の嫁が声楽をやっていて、オペラ歌手を志望しているが、いつかこうした舞台に立ち、私達の前で歌ってくれる日が来ることを夢見ている。

9月5日

今日からコレクション展。
朝から大勢のお客様がお見えになる。
若手から物故まで多岐にわたっての作品が並んでいることもあって、興味深く見ていただき滑り出しは上々である。
久しぶりのお客様も多く、それぞれに作品をお求めいただき、ご縁の大切さをあらためて噛み締めている。
海外ではどうしてもオークションなどで情報を得るため、そうした作家に目が向きがちだが、こちらに帰ってくると、皆さんそれぞれがご自分の好みで作品を選んでいただける。
個展を重ねた作家や新人作家、何かしらご縁があって発表をさせていただいた作家、目に触れた機会に手に入れた作品など、私自身思いの深い作品ばかりだけに、ご覧いただく皆様にも十分堪能していただけるのでは。

9月7日

シドニーにいる娘の荷物を送りに近くの郵便局にでかけた。
衣類や靴が入った30cm四方くらいの箱を窓口に差し出した。
係の局員が申告書にあれ書けこれ書けと愛想なく言われるのはまだ我慢が出来た。
別の局員が箱に描かれていた動物の絵を指摘してきた。
オーストラリアは動植物の検疫が厳しいので箱に動物の絵が描かれていては駄目だという。
家にあったコピー機兼用の電話機を買った時に入っていた箱を使ったのだが、そこにはメーカー名とともに象の絵が描かれていた。
そんなバカなことがあるかと言うと、駄目なはずだが、念のため調べるから待つようにと言う。
結局植物の検疫が厳しいことだけは分ったが(そんなこと調べるまでもなく知ってます!)、一応象の絵の上にガムテープを張って隠してほしいという。
こんな小さな箱に象が入っているわけないだろうと怒りを通り越してただただ呆れるばかり。
この融通のなさ、郵政民営化も未だ道険しを実感せざるを得なかった。
郵政民営化の見直しを標榜する国民新党と連携を組む民主党さんこの辺もよろしく。

9月10日

夏休み前に韓国・大邱(テグ)市で開催されるアートフェアーの担当者が見えて、参加のお誘いを受け、急遽参加することにしたと日記に書いた。
その後、親しくしている画廊に声をかけたところ私どもを含めて8軒の画廊が参加をすることになった。
他にも日本から参加する画廊もあると思うが、日本美術を紹介するいい機会となった。
8軒の画廊のうち4軒が老舗日本画商である。
美術の価値観が大きく変貌する時代にあって、日本画を扱うところも大きな岐路に立たされている。
同時にグローバリゼーションが進む時代にあって、日本だけの評価ではすまない時代になってきた。
世界での評価のためには常に海外への情報の発信が必要となってくる。
海外でのアートフェアーや個展・グループ展はその意味でも重要な情報発信の場となる。
そうした流れの中で老舗画廊の次世代経営者達は時代の変化に合わせていく必要性を痛切に感じ、新たな動きを模索するようになってきた。
今回4軒の画廊が参加する事もその現われの一つと捉えたい。
私の拙い経験も参考になるなら伝えていきたいと思っている。

9月11日

先日、戦前戦後一貫して東洋教学の精神を説き、政財界の多くの人に影響を及ぼした安岡正篤のご子息の安岡正泰氏の話を聞く機会があった。
その中で心に残った言葉が清の名臣曽国藩の言葉「四耐四不」すなわち「冷に耐え、苦に耐え、煩に耐え、閑に耐え、激せず、躁がず、競わず、随わず、以て大事を成すべし」
世間の冷たさに耐え、苦しみに耐え、わずらわしさにもひまにも耐えなくてはならない。
興奮してはならない、ばたばたしてはいけない、つまらない人間と競争してはいけない、人の後からのろのろついて行くのは最もいけない。
小さいながらも経営者の一人、心が挫けそうになることや冷静さを失うことや誰にも話せず思い悩むことも多い。
この言葉を聞いてとても勇気付けられた。

9月12日

新型のインフルエンザが猛威をふるっているようだが、身近で罹った人がいないせいか、まだ他人事のように受け止めている。
流行り始めた時はやれマスクだうがいだ消毒液だと大騒ぎをしたのだが、喉もと過ぎればで、電車に乗ってもマスクをするのが何となく気恥ずかしい。
先日行った台湾でもちらほらとマスク姿を見かけたが、38度にもなる猛暑の中でのマスク姿は何となく奇異に感じた。
台湾のマスクは黒や青いマスクが多く、マスクというよりは覆面をしているようにみえる。
きっと日本の銀行にこんなマスクをして入ったら、ガードマンが飛んでくるだろう。
死者が毎日のように出ているし、今までインフルエンザの予防注射などしたことがない私だが、今回だけはしなくてはならないと思っている。

8月には十数年ぶりに人間ドックというのを受けた。
吐きそうになりながらいろんなものを飲まされたり、喉やお尻に管を入れられたりで、余計病気になるのではと予防注射同様に逃げ回っていたが、偶然雑誌で見たPET検査というのを受けてみることにした。
正常細胞より3−8倍も多くブドウ糖を摂取するがん細胞の特性を利用した検査方法で、ブドウ糖に似せた薬剤を注射し、ブドウ糖が集まるところを画像化することでがんの有無がわかるという画期的な検査方法である。
チクッと注射が痛いだけで、後は2時間個室で寝ているかテレビを見て、それから20分ほどCTスキャンに入り、体内を画像化するだけである。
万能とはいえないが、何の苦痛もなく、体に優しい検査方法である。
結果は異常無しで一安心。
多少費用はかかるが、通常の人間ドックの検査はもっと費用がかさむことを思えば、皆さんにも是非お勧めしたい検査である。
くれぐれも家の犬や猫を連れて行かないように。

9月15日

私の予測とは全く逆で、円高が加速し90円台になってしまった。
下手をすると90円を割ってしまうかもしれない。
為替の動向というのは難しいもので、米国経済と日本経済の現状を単純に比較すると、私にはドルの方が強いように思えるのだが。
私のところのように僅かなお金でも一喜一憂しているのだから、何百億、何千億の商売をしているところは気が気でないだろう。
明後日から行く韓国でも、リーマンショック後ウォンは円に対し一気に半分まで下がった。
今はもう少し良くなっているが、参加費用は一年前に比べればかなり格安で参加出来ることになる。
しかし作品価格はウォン表示をすると日本の国内価格よりはるかに高くなってしまい、この辺の調整が難しい。
そうしたこともあって、ドル表示が一番いいと思うのだが、これがどんどん弱くなっていくとなると、さてどうしたらいいか思案のしどころである。

9月19日

ソウルのアートフェアーKIAFも3日目を迎えた。
韓国経済もようやく回復の兆しが見えてきたが、フェアー自体は思ったような成果は各画廊出ていないようだ。
会場も今年から1階から3階に、盛大だったウエルカムパーティーも地味目にと、主催者側も経費節減に努めているようだ。
私のところのブースは入口のすぐそば、現代画廊、GANA・ARTといった韓国1,2の画廊のすぐ横といった配慮をしてもらったので、場所のせいにはできないが、人の入りは今一つといったところだろうか。
私どもが毎年フェアーで紹介している東京芸大大学院で学んだリ・ユンボククンが、3メートルにも及ぶ超大作の作品を制作し、展示したが、この作品は圧巻で、多くの来場者の注目をひいていて、何とかこの作品は会期中に納めたいと思っている。
12月に韓国で個展を予定している金井訓志、同じ時期に2人展が決まっている服部千佳・門倉直子の作品も注目を浴びている。
出足は台北の時のようにはいかないが、少しでも海外で多くの作家を見て知ってもらう機会になればと、残り4日スタッフ共々頑張ろうと思っている。

9月20日

4連休を利用して、我が画廊の女性スタッフが二人KIAFにやってきた。
我がスタッフは実に美術好きで、時間ができれば画廊廻り、美術館巡りに精を出している。
そんなスタッフが3人揃って、昨年より開催されているアートフェア「ウルトラ」にそれぞれ参加することになった。
このフェアはギャラリーで企画や作家を担当しているディレクターの個人を出展単位とする新しい試みで、年齢も40歳以下に設定している。
次代を担う若手ディレクターにスポットをあてて、新鮮な感性の継続を意図したフェアである。
10月29日から11月3日まで青山スパイラルにて開催される。
我がスタッフ3人ともセレクションを通過し、晴れて独自の企画によるフェアへの参加となる。
それぞれが自分の責任において企画販売をしなくてはならず、画廊経営の一端を経験することで、私のところにも将来の3人にとっても大変有意義な体験をすることになる。
私など及びもつかないほどいろいろと見聞きをしている彼らのお手並み拝見となるわけで、皆様にも乞うご期待である。

9月21日

土日を終えアートフェアも残すところ2日となったが、各ブース成果はいま一つのようだ。
入場者は多いように思うが、中々商談までとはいかない。
韓国の画廊も総じて元気がないように見受けられる。
先日開催された上海のSHコンテンポラリーもいま一つだったと聞いていて、ちょうど先日アップされたメルマガART・iTの特集「アジアのアート市場は回復したか」のアンケートの結果通りとなった。
この雑誌は現代美術に特化した雑誌で、メルマガとして再スタートし、今回海外に出ている内外の画廊にアジアのアート市場に関してのアンケートを送り、その結果をまとめた。
アジアの最前線に出ている私たちには興味深い記事で、海外に出ている日本の主要な画廊が回答していることもあり、現状を知るうえでは大変参考になった。
ただ、海外の画廊からはほとんど回答がなく、現在の状況をうかがうことはできない。
総じて欧米のマーケットに対して、アジアのマーケットの未成熟さを感じさせる結果となり、今後私たちがすすむべき方向を考えさせられる記事であった。

http://www.art-it.asia/

9月22日

最終日だけに朝から多くの人で賑わう。
今回、我が画廊は大作を含め何点かは売れたが、いずれも日本や台湾、シンガポールのお客様で、韓国のお客様とはあまり縁を結ぶことができなかった。
多くの画廊がいまひとつの中、一軒だけ大阪の画廊さんが気を吐いている。
聞いてみると、お客様からお客様へといい繋がりが好結果に結び付いたようだ。
良縁というのだろうか、良い方との縁がいかに大切かを改めて教えられた。
特に韓国は血縁、地縁といった儒教精神を重んじるお国柄だけに、人との縁は仕事においても欠かせない重要な要素である。
そのためには、ご縁のできた大切なお客様と誠実に向き合うことで、それが信頼につながり、次に繋がることになる。
長い間韓国とお付き合いをさせていただいているが、そういう意味では、まだまだ私には良縁というお付き合いがなされていないことに気付かされた。
こうした反省を踏まえ、良い方との出会いを期待しつつ、次回につなげていきたい。

9月25日

帰国後、早速次の展覧会の準備が始まる。
伊津野雄二彫刻展が土曜日から開催される。
ダイナミックでありながら、優雅・清楚・といった言葉がふさわしい木彫作品を発表する。
コンテンポラリー全盛で新しい価値観が生まれつつある今を認識しつつも、時代に動かされることなく、こつこつと彫り、刻み続ける伊津野雄二の姿勢にも共感を覚える。
KIAFでも、韓国の一番古い画廊・現代画廊はほぼ完売だったようだが、展示されている作品は物故作家のものが多く、偏りすぎたコンテンポラリーアートバブルへの揺り戻しの結果なのかもしれない。
最後の夜に現代画廊系のKオークションのパクさんにおいしい韓国料理をご馳走になったが、その時の話では、KIAFの初日に開催されたオークションでも、古い時代の作品が高値で落札されたそうで、しばらくはそうした流れになるのではとのこと。
日本は具象系人気作家たちがあまりにも装飾的なものに偏りすぎた事もあって、振り返っても見るべきものは少ないが、低迷している抽象系の戦後美術の作家達に今一度スポットライトが浴びるような気がしてならない。
同時に、伊津野雄二のようにひたむきに自分の足元を見ながら仕事をしている作家達に、もう少し目を向けてみたらどうだろうか。

私どもで長い間展覧会を重ねた野坂徹夫氏から地方での展覧会の案内が届いた。
その一文にこんなことが書かれていたのでご紹介する。

「おそろしいほどの速さでうつろう世の中です。
変わらない事などひとつもなく、年を重ねるほどにゆううつな気分になります。
人間にとっていちばん大切なものは何だろう。絵を描いていると、かたちと色の海にひとり舟をこぎ、
その答えかもしれない港の灯を夢中で探している自分に気づきます。
身がひきしまる想いです。」

もがきながらも自分の道を歩み続ける心情が伝わってくる。

9月26日

今日から始まった展覧会の伊津野氏の作品が藤岡陽子のデビュー作「いつまでも白い羽根」光文社刊の表紙に採用されたことはホームページで紹介済みだが、月刊ギャラリー9月号のBOOK・DESINGのページで紹介された。

看護専門学校を卒業した経験を通して、その学校を舞台に看護学生が実習や人生での苦難や挫折に立ち向かい、まっすぐに生きようとする姿がすがすがしく描かれ、帯には「正統派大型新人登場!」と、その期待度が伺われる。
装丁を手がけたのは、その道の第一人者である川上成夫氏で、次のように語った。
「ギャラリー椿から送られてきた伊津野さんの展覧会案内の葉書を、ピンナップして取っておいたんです。
どこかでデザインで使いたいなとおもって。
そうしてこの小説を読んだら、純粋で凛とした主人公の生き方と、白く、清らかなこの女性像のオブジェがぴったりだと思いましたね。」
「編集者も気にいってくれて、一発でこの装丁に決まりました。
作家も非常に喜んでくれていると聞いています。」
「”縁”とも言っていいかもしれませんね。」

装丁に使われた作品は前回の作品だが、今回は更に清く美しい作品が並ぶ。

9月27日

展覧会の初日だが私が40年前にお世話になった梅田画廊の社長土井憲治氏の13回忌を兼ねて出身者が集まり往時を偲ぼうということで大阪に出かることにな
った。私がいた当時は梅田画廊の全盛期で社員だけでも80名おりその隆盛ぶりがうかがえる。

多くのOBがこの業界で活躍していたが早くに亡くなったり音信不通になったりで現在画廊スペースを持っているのは泰明画廊、ギャラリー新居、私の三人にな
ってしまい寂しい限りである。
それでも大勢の仲間が集まり賑やかなひと時を過ごすことができた。
社長が社員を家族のように可愛がってくださったこともあって機会あるごとに昔の仲間が集まってくる。

辛いこともあったが青春の一時期を過ごさせていただいた幸せを噛みしめながら、多くのことを学ばせていただいた土井社長には心よりの感謝を申し上げたい。

9月29日

一昨日の日曜日は家内の60歳の誕生日。
還暦である。
人生の折り返し地点に到達、一からのスタートである。
長女に子供が生まれ、長男も結婚し、後は末娘が残るのみだが、これも私の知らないところで、母娘なにやらこそこそしているところを見ると、きな臭い匂いがする。
となると、子供も手を離れ、家内も自分の好きなことを気兼ねなくやれる歳になったわけで、文字通り一からの人生である。
ただ、手のかかる粗大ごみが一つ我が家に残っているので、人生を謳歌というわけにはいきそうもないが、せいぜい自分の人生を楽しんでもらいたい。
子供やスタッフ、作家さんから還暦の祝いをもらい、我が家は赤に染まっている。
とりわけ息子夫婦から送られてきた60本の紅い薔薇には感激したようで、気の利かない私などはいつも以上に身を縮めるしかない。

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