●2月7日
新しいギャラリーへの引越し、オープン記念展、原崇浩展と慌しい日が続き、今日が原展の最終日でようやく一段落といったところです。
日記も移転準備などもあって、10月以来手付かずのまま日が過ぎてしまいました。
1月15日のオープニングパーティーには身動きがとれないほどにたくさんの人がお祝いに駆けつけていただき、これほどうれしい気持ちになったことはありませんでした。
21年目の新たなスタート、果たしてどれだけの人に来ていただけるか不安でいっぱいでしたが、お客様、作家、画商、友人、これまでお付き合いをさせていただき、お世話になった人たちのお祝いの一言一言が胸に染みわたり、感激でこみ上げてくるものがありました。
新しいスペースは旧ギャラリーより天井も高くなり、明るく開放的なスペースになりました。
自分でもイメージしていた以上にいい空間となり、これから作品を発表する作家の方達にも喜んでいただけることと思います。
16日からは小原馨展が始まります。
ニューギャラリー全部を使い、この空間にふさわしい明るく楽しげな作品を見せてくれることと思います。
是非、このホームページを見ていただいている方はニューギャラリーにお訪ねいただき、新しいスペースとそのスペースをいかした作品をご堪能ください。
●2月16日
小原馨展の初日です。
前にも日記で紹介しましたが、昨年の同じ頃に、彼の出身地である岩手の美術館で「子供の時間」と題して大規模な展覧会が開催されました。
その時のタイトルにもあるように彼の作品は子供の頃の岩手の記憶がそのモチーフになっていて、今回も北上川の心象風景や子供の頃遊んだ記憶が描かれています。
彼は大学を出て、最初に盲学校に勤務し、そこで目の見えない子供達に美術を教え、今は聾唖学校に移り同じようにハンディーのある子供達に美術を教えています。
そこで教えた子供達から逆に彼は影響を受け、手の触感を残した作風が生まれ、音のない世界からリズムやメロディーのある絵が生まれるようになりました。
今回の作品には、特に絵の中から音が聞こえるような作品が多く、新しくなったスペースに安らぎを与えてくれています。新しいスペースを持って何がよかったかと言うと、こうして発表してくれる作家達がこのスペースを生かすべく一所懸命制作してくれることです。
これから個展を控えている作家達から、次々にこういう作品を作ろうと思っているという熱い思いを聞かせてもらい、新しい画廊を造った喜びに浸っています。
●2月25日
先週の日曜日に久しぶりに休みをとることができ、画廊の前にあるテアトル銀座で懐かしの名画「サウンド・オブ・ミュージック」を見に行ってきました。
私の目の前にいきなりドカーンとアルプスの壮大な景色が迫り、身体に染みわたるようなジュリー・アンドリュースの歌声の迫力に、すっかりテレビやビデオになれてしまった私の五感は度肝を抜かれ、映画ならではの醍醐味にたちまち引き込まれてしまいました。
映画の始まる前に見に行った香月泰男展のしばらく画集でしか見ることのなかったシベリヤシリーズの絵もそうでしたが、本物を間近に見る魅力に酔いしれた一日でした。
私の画廊も天井が高くなり、前回、今回の展覧会と大作が並び、見に来てくださるお客様もスペースの大きさと作品の大きさに驚き、しばしたたずむ姿を見ると、私が映画館で圧倒された時と同じように、大きな作品を間近で見る迫力と魅力を感じてくれているのかもしれません。
あらためて新しいスペースを持った喜びに浸っています。 ●3月9日
呉本展が始まり1週間が過ぎました。
今回の展覧会は残念ながら大作中心のためなかなか売上につながりません。
4回目の個展で、以前より画面が整理され対象がはっきりしたせいか、とても見やすくなりもいい作品がたくさんあるのですが。
営業のことを考えると、もう少し売りやすい小品があればいいなと思う反面、せっかく広いスペースを持ったのだから作家に思い切り自由に制作してもらい、見ごたえのある展覧会を開いていきたいとの思いもあり複雑な心境です。
ただ有難いことに、見ごたえのある展覧会が続いているせいか、若い優秀な作家達がGTUを次々と申し込んでくれています。
急にスペースが変わったこともあって最初の一年は宣伝期間として、来年から申し込みがあればいいなと思っていたのですが、既に9月以降は年内の予約は完了してしまいました。
GTUで発表する作家の中から次のステップに進む作家が出てくることを期待しています。
スタートして2ヶ月まだ手探りですべてが思うようには行かないと思いますが、無理せず以前の画廊同様に一歩一歩進んでいけたらと思っています。
●5月22日
久しぶりの日記です。
3月以来で画廊の仕事も忙しかったのですが、それ以上に忙しかったのが6月にソウルで開催される国際アートフェア−の準備でした。
大変なことを引き受けたと後悔しつつ、国際親善、日韓文化交流の一助になればと頑張ってきました。
日本の画廊のKIAFへの参加要請のまとめ役と今回企画された日本現代美術特別展の日本側事務局として準備をすすめて欲しいとの依頼があり、簡単に引き受けてしまったのですが、海外との仕事がこれほど大変とは思っても見ませんでした。
語学のなさが最大要因ですが、仕事の進め方やチェックの仕方などお国柄の違いを思い知らされました。
同時に予算と時間のない中、キュレーションをお願いする先生や特別展の出品作家の選定、作品依頼、搬出入、カタログ校正などなど次から次へと仕事が重なり、更には参加画廊の作品運送やそれに伴う資料作成、保険その他もろもろを全て背負い込み、パニック状態の中で担当の我がスタッフは殆ど徹夜の毎日が続きました。
ようやく昨日約400点にものぼる作品を海運会社に運び込み一段落したところです。
といっても予算が全く不足し、頑張ってくれたスタッフの手当てなどどこを絞り出しても一滴も出てこない現状を考えると、残された僅かな期日を寄付のお願いで走り回らなくてはならず、のんびりなどはしてられません。
これもいい経験とプラス思考にとらえ、なんとかアートフェア−と特別展が成功することを祈るばかりです。
来月の6月21日〜27日までソウルCOEXという国際コンベンションホールで開催されますが、日本からの参加画廊21件を含め世界から130軒の画廊が集い、それぞれが趣向を凝らした展覧会を企画し、同時に初めてとも言える大規模な日本美術の紹介となる30人のアーチストによる現代美術特別展は日本でも見られない充実した内容となります。
韓国まで往復3万円程度で行くことが出来ますので、是非時間が取れる方は見に来てください。
焼肉やビビンバおいしいですよ。
●5月26日
日曜日に私が入っているボランティア団体の大きな国際大会が大阪で開催され、その会合に出席した帰りに、月,火と山科、更には足を伸ばし琵琶湖湖北、彦根、信楽に行ってきました。
私の父親は大津の先の草津にというところで生まれ、5歳の時に両親と死別し、京都の南禅寺にある叔父の家で育てられたのですが、私は子供の頃と結婚直後に墓参りに行ったきりで、行き来のある親戚もいないこともあって、その後は父の田舎を訪ねることはありませんでした。
そんなこともあって疎遠になってしまった洛東と近江路の父親ルーツを訪ねてみたいと常々思っていた折に、大阪の会合に出席した仲間で琵琶湖周辺を旅しようということになり、それは絶好のチャンスと忙しい仕事をほったらかして参加することにしました。
天候にも恵まれ目にもまぶしい新緑の中、ハードスケジュールでしたが二日間思う存分堪能して帰ってきました。
山科の毘沙門堂問跡の庭園、彦根城、瀬田の石山寺、どこも滅多に行けるところではなく、それぞれの景色,庭園の美しさに目を奪われ、桜や紅葉の季節に今一度訪れたいとの思いを強くしました。
そうした中でも大感動は信楽にあるミホミュージアムでした。
この美術館は熱海にMOA美術館を持つ宗教団体から分派した宗教法人の会主が芸術こそが美の現れであるという理念から設立した美術館で、ルーブル美術館を始め世界の多くの美術館を設計した中国系アメリカ人のI.M.ペイの手による自然と芸術そして建築が一体となった世界でも有数の優れたデザインの美術館であります。
桃源郷をイメージしたといわれるアプローチは枝垂桜が両側を埋め尽くし、春の満開の時期にはどれほどの美しさか想像もつかないほどです。
その先には自然と溶け込むように絶妙にデザインされたトンネルとブリッジがあり、渡りきったその目前に日本の伝統的な寺院建築と中国建築の象徴的な形である円を組み合わせた美術館の玄関が、これまた自然の景観を損なうことなく現れてきます。
洗練された美術館の景観に圧倒されつつ館内に入ると、大きなガラス越しに周辺の山並みが一望でき、今一度その美しさと雄大さに目を奪われます。
ここに収められている収蔵品の多くを納めたH氏が私どもの若い作家を数多くコレクションしてくださっていることもあり、H氏の話から一度は訪ねてみたいと思ってはいたのですが、これほど素晴らしいとは夢にも思いませんでした。
そして建築以上に驚かされたのはコレクションの質の高さでした。
紀元前時代の古代中近東からエジプト、ギリシャ、ローマ、中央アジアのガンダーラ美術、更には古代中国から唐にかけての中国美術やアジア美術、今回は見ることが出来ませんでしたが、そうした海外からの文化を受け継いだ日本の仏教美術や茶道美術、近世絵画、どれをとっても逸品揃いで、集めた会主と納めた美術商の眼力の高さには驚かされるばかりです。
往々にして見られる金にあかせてといったものは一つもなく、よくぞこれだけのものを集めたかと思えるほどの格調の高いコレクションでした。
H氏が世界をまたにかけ、一年のうちの殆どをこのコレクションのために費やしているとは聞いてはいましたが、これほどとはただただあきれるばかりです。
これほどの優れた作品を納めることが出来、更にはその作品がこの美しい美術館に並べられ、そうした作品を見る人をこれほど感動させるとは、これ以上の商売冥利に尽きることはないと、同じ美術に携わるものとして羨ましい思いがいたしました。
古美術を専門とし、数多くの文化遺産を手がけてきた目利きのH氏が、翻って全く分野の違う私どもの山本麻友香や小泉アヤ、須永高広といった若手作家を数多く持ってくださることは、無上の喜びとともに何よりの私の励みになります。
滋賀の山の奥の交通の便がとても悪いところですが、日本にもこんなに素晴らしい美術の桃源郷があるのかと知っていただきたく、是非一度訪れることをお薦めします。
いい旅をしてきました。
●6月4日
ムッシャ展は5月22日に終了したのですが、とても心地のいい作品ばかりで、はずすのが惜しくて今日まで飾っておきました。
ムッシャさんはチェコスロヴァキアからフランスに亡命をして、パリを中心に制作活動を続け活躍をしている作家です。
淡い微妙な色調の中に、季節の移ろいや自然の中に静かに流れ漂う音の響きを描き出していて、あたかも水墨画で描かれた東洋の自然の佇まいを彷彿とさせます。
日本では初めての展覧会だったこともあり、それほど多くの人には見てもらえませんでしたが、来られた方は一様に画面から醸し出す優しさ,温かさを感じて下さったようです。
映像世代が跋扈しコミックやアニメを背景にしたサブカルチャーばやりの昨今、文学や詩で感性を育んだ活字世代の人たちの心に久しぶりに潤いをあたえてくれたようです。
●6月8日
先日、二つのロータリークラブで講演をする機会があり、「日本の文化度」と題して話をしてきました。
戦後の経済成長の中にあって、海外に誇る日本独自の文化が育ってきたかについて、行政のあり方、民間企業の文化への取り組み方、個人の文化への関心度などを通して私なりの考え方を述べさせてもらいました。
更には現在、海外から大きな注目を浴びているコミックやアニメを背景としたサブカルチャーについて話をさせてもらいました。
既に評価されているものを認めるのではなくこれからのものを見極め育てることが、その国の文化を高める大きな要素である以上、今生まれつつあるサブカルチャーなど日本独自の文化をどう評価し、どう受け止めていくのか我々の知的教養度を試されている時かもしれませんと結んできました。
二つの会場を合わせると150人くらいの人数でしたが、冒頭この一年間に国内の美術館や百貨店の展覧会に行かれた方はと質問をしたのですが、あわせて10人程度の手が挙がっただけでした。
経営者、医者、弁護士といったある程度豊かな部類に入る人達でさえこの程度ですから、我々の道の険しさを痛感させられました。
●6月12日
金井さんと開光市さんの奥さんのむつみさんの展覧会を開催中。
金井さんは昨年、文化庁在外研修員としてフィレンツェに行った折のイタリア風景を中心に展示しています。
従来人物画が多く、今回のように風景画をこれだけ並べた展覧会は初めてではないでしょうか。
昨年、京都で発表した風景画がとても印象深かったので、今回は是非風景画も加えてくださいとお願いはしていたのですがこれほどとは。
イタリア郊外の景色が色彩豊かに描かれ、シンプルに表現された木々と相まって素朴でほのぼのとした村落や家並みを見ていると今すぐにでもイタリアに旅立ちたい気持ちにかられます。
金井さんの金箔を使ったテンペラ技法は古くからヨーロッパの祭壇画に使われた技法ですが、そうした古い技法を使いながら、現代的なグラフィック的表現は金井さん独特のものがあります。
8月から東京国立近代美術館で開催されるRINPA展で光琳や宗達に混じって展示されるウォーホールやマティスとの対比を見てもらうと金井さんの意図するところが読み取れるかもしれません。
むつみさんはご主人の光市さんの画面から放つ強烈なオーラに影響されること無く、優しくどこか懐かしい絵を淡々と描かれています。
金井さんの強い色彩とむつみさんの微かな色彩がせめぎあうことなく、おのおのを際立たせ、椿とGTUの空間をバランスよく取り持ってくれています。
一粒で二度おいしいではありませんが、皆さんにお越しいただき二つの展覧会を楽しんでいただけたらと思っております。
●6月30日
韓国国際アートフェア−(KIAF)に行ってきました。
日本から21軒の画廊が参加をし、韓国はもとより欧米の画廊、中国、台湾を含め130の画廊が参加をしてソウルの国際コンベンションホールにて盛大に開催されました。
日本の参加画廊のとりまとめと今回企画された日本現代美術特別展の準備でこの3ヶ月間忙殺されましたが、何とか無事に終了して帰ってきました。
出発早々からエンジントラブルということで成田に足止めをくらい、一泊の後無理矢理に振替便に乗せてもらいオープニングぎりぎりに展示が間に合うというアクシデントにもかかわらず、初日から私のブースは賑わい、その中でも山本麻友香の作品に人気が集まり、60号を始め一点を残して全部売れてしまうといううれしい結果となりました。
作品を買わないまでも、次々と若い女性や子供連れのお母さん達が山本作品の前で記念写真を撮っていくのには驚かされました。
アートを身近に感じる人達がたくさんいることは羨ましい限りです。
他の日本のブースや特別展も多くの人で賑わい、日韓の壁は映画やテレビドラマ、音楽同様に文化に関する限り全くなくなったように思いました。
全体で感じたことは、今の日本と同様に癒し系、可愛らしい系の所謂サブカルチャアーの範疇に入る作品に人気が集まり、古いタイプの抽象絵画にあまり目が行かなくなっているように感じました。
この事は先の北京でのアートフェア−でも同様の傾向だったようで、こうした絵画が今のアジアンアートの主流になってきたのかもしれません。
と同時に、ようやく韓国、中国に次いで日本のアートが世界の中で注目される時期にきたのではとの思いを強くしました。
これを契機に多くの日本人作家が海外で活躍するようになるのではとの期待で胸を膨らませつつ帰ってきました。
韓国国際アートフェア−(KIAF)
の詳しい情報はこちら ●7月10日
京橋界隈展が始まり一週間がたとうとしています。
新聞や雑誌で京橋界隈10周年という事もあって大きく取り上げられ、見に来る人も多いのではと期待したのですが、始まった途端に猛暑となり、人出も少なく期待はずれでがっかりしています。
今回開催している内林展も井上展も初めての企画で、この暑さの中一服の清涼剤となるような爽やかな作品が並んでいるのですが。
内林の作品はほの暗い照明の中、微かに光る光や音、映像を使った作品が並び、遊び心をくすぐる作品にしばし心を奪われます。
空を飛ぶ椅子であったり、自動で絵を描く機械、海の中を覗けるテーブル、月の表面を映し出す顔など子供の頃に夢想し、作ってみたかった物が彼の手によって作品となっていく。
そうした作品の多くは、CDやDVDといったデジタルな素材を取り入れているのですが、どこか懐かしいアナログ時代に時計の針が戻っていくようで、ゆったりとした時の流れに身をゆだねながら、外の暑さを忘れて至福のひと時を味わうことが出来ます。
井上作品も水彩のにじみやモチーフとなっている日差しと陰を独特の木版の技法で表現していて、見る者の心を和ませてくれます。
技法は違いながらも二人の作風に共通する心地よさが猛暑を忘れさせてくれること間違いなしなので是非お出かけください。
井上展 |
内林展 |
●7月23日
暑い日が続きます。
暑いというより熱いと言ったほうがいいかもしれません。
梅雨にも雨が降らず、干上がった東京砂漠の中でただただ暑さが過ぎ去るのを待つしかありません。
小さな畑で野菜を作っているのですが、いつも8月の中ごろに採れるとうもろこしがもう食べごろになってしまい、カラスにおいしいところをみんな食べられてしまいました。
レタスや白菜などの葉物も大きくなりすぎて干からびてしまい、去年は冷夏で不作だったこと思うと自然相手に仕事をしている人達の苦労が身にしみてよく分かります。
私たち画廊も自然相手とは言えないまでも、この暑さでは画廊巡りなどする人は殆ど見当たらず、画廊の中は静かなものです。
世の中景気が回復したと聞くたびに、がらんとした画廊を見渡してはえっ本当と思ってしまいます。
暑気払いの意味でも8月から開催される恒例の京橋界隈オークションにはたくさんの方に来ていただきたいものです。
今回は会場を私どもの画廊をメインにしてお隣、お向かいの川船、もりもと、戸村を使って展示いたします。
絵画や美術書、額縁など500点近くが格安にて出品されます。
お楽しみのイベントです。
どうぞ画廊の中ででゆっくり涼みながら掘り出し物を探しに来てみませんか。 ●7月30日
私どものお客様でクラシックギターの名手佐藤達男さんのコンサートに招かれ行ってきました。
場所は初台のオペラシティーにある近江樂堂で、ここのオーナーは同じオペラシティ−のミュージアムに2000点にものぼる美術品を寄贈した寺田さんという方で、私のところも20年以上のお付き合いをさせていただいている大切なお客様の一人です。
そんな関係もあって、今回は寺田様とご一緒に演奏を聴かせていただくことになりました。
このホールは同じ場所にある国立オペラハウスやオぺラシティーコンサートホールを設計した柳沢さんが寺田様の意向に沿って建てられた、教会を模した小ホールで、高い天井のトップにあるガラス窓から昼間には光が注ぎ、夜には月の光が差し込むといったクラシック演奏に相応しい夢幻の空間となっています。
生の音を間近で聴きながら、演奏者と一体となって音楽を楽しむのにこれほど相応しい空間は無いように思います。
空間に響く音がこれまた素晴らしく、佐藤さんのギターの音色を存分に引き立て、しばしその心地よさに浸ることが出来ました。
私の画廊も天井が高くなり、ここには及ばないまでもそれなりの音響効果が期待できるので、画廊でも展覧会の合間に佐藤先生の演奏会を開催したいと思っております。
佐藤先生の人柄そのものの人の心を優しく暖かく包み込むような音色を皆様にも是非聴いていただきたいものです。 ●8月21日
暑い夏休みも終わり気を引き締めて仕事にと思っているのですが、オリンピックの日本の金メダルラッシュで深夜テレビにかじりついているせいか寝不足気味でもう一つ気合が入りません。
来週からはギャラリーコレクション展が始まるので日本選手に負けないように頑張らなくてはと思っています。
物故作家の初期作品や取り扱い作家のデビュー当時の珍しい作品がたくさん出品されますので楽しみにしてください。
同時開催でアーチストの原画を文字盤にした時計展も開催します。
小林健二や恒松正敏、鈴木亘彦、綿引明浩、桑原弘明、山本麻友香などギャラリー椿の取り扱い作家を始め多数の作家の時計が展示されます。
この会期中のみ40%OFFで購入できます。
誰もしていない自分だけのブランド時計を探しに来てみませんか。
報告が遅くなりましたが、休み前に開催された京橋界隈オークションは会場の都合もあって、暑さ真っ盛りの八月の平日に開催することになり人出は少なかったのですが、結果は250点を超える落札があり、オークションを楽しみにされている方が多いのにはびっくりさせられました。
特にうれしかったのは初めてこのオークションで美術品を購入した方がたくさんいたことです。
作品を引き取りに来られる時のうれしそうな顔を拝見して、これを契機に是非美術ファンになっていただきコレクションの楽しみを知っていただければと願っています。
これから秋に向けてギャラリー椿の展覧会は目白押しです。
暑さはしばらく続きそうですが、皆様の来廊をお待ちしています。 ●9月15日
河原朝生展が始まって1週間が過ぎました。
長い付き合いなのだが、ようやく念願の初個展です。
グループ展などで何度も出品してもらったのだが6年前に川口紀美雄との2人展以来ようやく実現をした待望の展覧会である。
以前の作品にはどこか懐かしい芝居小屋の舞台を思わせる物語性があったのだが、今回の作品にはそうしたものを感じさせないでただ対象物だけを描き、その奥に見るものに何かを感じさせるイマジネーションの世界がを描かれているように思う。
ただ以前と同様に画面からはノスタルジックでどこかで昔に見たようなデジャ・ヴュな世界は一貫しており、それが河原の魅力となって心を揺さぶるのは今もって変わらない。
特に今回秀逸な作品と思える100号の「時間の部屋」は、何層にも塗り重ねられたベンガラ色とも言える赤い壁にぽつんと置かれた小さな柱時計と床のじゅうたん、そして遠近が逆転してしまった花と犬、それだけの絵なのだが、その壁の圧倒感と奥行きの深さ、更にはその壁に取り囲まれた空間の静謐さと緊張感に、私はただその前に立って祈りを捧げるような敬虔な気持ちにさせられ、その場を動くことさえその静謐な時の流れをかき乱してしまうのではないかと躊躇させられた。
彼は永い間社会に対して斜に構え、無頼な時を過ごしてきたというが、彼の澄んだ瞳からとてもそのような人生の片鱗をは見ることはなく、そうした生き方さえ彼の純粋性の中で消化されてしまい、今の彼の画面の中にかもし出される心の温かさを育んできたように思う。
美術の秋に相応しい珠玉の展覧会です。
●10月5日
長い長い暑い夏がようやく終わったかと思うと毎日が雨。
猛暑、台風、噴火と今年の天気は私たちの身体にこれでもかこれでもかと厳しい試練を与える毎日のような気がします。
長い不景気で心のほうは打たれ強くなってはいるのですが、身体にはこの長雨が最後の試練であって欲しいと願っています。
先週から須永展が始まっています。
謄写版という懐かしい技法で版画を発表してきましたが、今回は卵テンペラによる作品を中心とした展覧会です。
重ね合わせた色彩の中からおぼろげなかたちが見えてくる須永さん独特の表現を細かい筆致で描き出しています。
昔は印刷というと謄写版が主流で、私たちの年代ですと学校の印刷物はガリ版に蝋原紙をあてて、鉄筆で削りながら字や絵を描いて版を作り、網の台を版の上にかぶせ、たっぷりとインクをつけたローラーでこすって一枚一枚印刷したものです。
インクで真っ黒になった手やタール臭いインクの匂いが懐かしく思い出されます。
所謂シルクスクリーンの原点のようなもので、プリントごっこという年賀状などを個人で作るプリンターにその面影は残っていますが、ワープロやパソコンの出現とともにすっかり消え去ってしまいました。
そのためこの技法で版画を作るにはもととなるガリ版や蝋原紙を探さなくてはならず、須永さんはあちこちの学校に残っているガリ版をもらったり、各地の紙屋さんを探してようやく残っている所を見つけて、蝋原紙を全部買い込んだそうです。
この紙は古くなればなるほど質的には良くなるそうなので、須永さんの原紙はとても貴重な紙になることでしょう。
日本では全く見られなくなった謄写版ですが、中国の奥地や東南アジアの電気が通じていないような所ではいまだに謄写版が使われているようです。
日本でも同好の志が集まって、謄写版クラブなるものをつくって謄写版で印刷したものを相互に送って楽しんでいるところがあるそうです。
画廊に来られる折には、テンペラ画とともに須永さん独特の謄写版版画(ペーパースクリーン)を是非ご覧下さい。
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佳日 ペーパースクリーン |
立方体 テンペラ画 |
●10月9日
観測史上、最大級の台風が関東に上陸とのニュース。
確か10月10日前後が一年で一番天気がいいとの事で東京オリンピックの開会式が決まり、その日にちなんで国民の祝日として体育の日が制定され、秋晴れのもと運動会がいっせいに行われるはずなのですが、どうなっちゃったんでしょう。
台風一過、来週からは快晴が続くといいのですが。
18日からは韓国のアートフェア−で話題を呼んだ山本麻友香展が始まります。
案内状になったスプーンマンやピンクベア−の大作には既に電話予約が入り、展覧会への期待が膨らみます。
人物を強い描線で刻む大作銅版画の発表で注目を浴びた後、そのフォルムをだんだんと単純化させてきた彼女ですが、イギリスに渡る前後からは版画から油彩画にシフトし、同じ人物表現でもおぼろげな中に人の形を微かに辿るといった造形にとらわれない独自のスタイルに変わってきました。
帰国後、子供を産んでから更にその表現は大きく変わり、子供がモチーフとなってきたのですが、ただ単に母性愛からお決まりの子供を描くのではなく、生命の誕生という自然の摂理が彼女の根源にある動物的本能を揺り動かし、静謐な子供の絵の中にエロスの影が落ちていると評していただいた本江邦夫先生(多摩美術大学教授、府中市美術館館長)の言葉にもあるようになんとも摩訶不思議な子供像が描かれるようになりました。
発表のたびにすべてを出し尽くし、蛹から蝶に羽化するごとく大きく変貌をとげる山本麻友香展に乞うご期待!
Spoon
man |
Pink
bear |
●10月19日
山本麻友香展が始まった途端にまた台風がやってきました。
展覧会を狙い撃ちしているかのように今年は何度もやってきますが、一体どうなっているんでしょうか。
幸いなことに、展覧会のほうはまだ2日目にもかかわらず、150号の大作を始め50号以上の作品が全て先週までに予約が入り、小品もドローイングを除いて全て売約となってしまいました。
台風を吹き飛ばすような勢いのこの売れ行きに私たちも作家もただただ驚いています。
世間では少しは景気が回復したといわれていますが、台風が画廊にも好景気の風を運んできてくれたのでしょうか。
実際、今回の彼女の作品にはコレクターの方たちの心を揺り動かすような強烈なインパクトがあるようです。
その上、新しくなったスペースに大きく変わった彼女の作風は必ずやマッチするとは思っていたのですが、その想像以上に画廊の壁面にピッタリの展覧会となりました。
あらためて,新しいスペースを持った喜びに浸っています。
今回はカタログやポストカードを別に制作しましたので、日記を見たといっていただければプレゼントさせていただきます。
是非ご覧下さい。
●12月4日
早いもので今年の1月に新しいギャラリーをオープンしたのがあっという間に師走になってしまいました。
この間多くの展覧会を開催してきましたが、大変な好評をいただき出品していただいた作家の皆さん、その作品をコレクションしていただいたコレクターの皆様に、心より感謝申し上げます。
山本展以来、日記をサボってしまいましたがこの間富田有希子展、天久高広展、小林裕児展、木村繁之展と皆様に見ていただきたい展覧会が続きました。
特に富田展、小林展は大作を中心の展覧となり、山本展同様の広い会場を生かしたとても素敵な空間を作り出してくれました。
会場が作家の気を引き出し、作家が会場の気を引き出しているよと言ってくださったお客様がおられ、何よりの誉め言葉と感激いたしました。
小林展の23日にはアートと舞踏とコントラバスの競演があり多くのお客様にお越しいただき楽しんでいただきました。
ダンサーの衣裳に小林さんが音楽にのせてボディペインティングをし、その衣裳でダンサーが即興の音楽に合わせて踊り、コントラバスの音色がダンサーの踊りに引かれるように奏でられ、三者がひとつになってアートを作り上げていく様はとても興味深いものがありました。
今日4日も二人のコントラバス奏者による競演があり、180年前に制作され、獅子の頭が彫刻された2台の名器による演奏は聴く人の心を揺さぶるに違いありません。
12月の18日にも綿引明浩展の時にはスペイン・カタロニアが生んだ名曲「鳥の歌」をイメージした作品とともに佐藤達男氏によるクラシックギターの演奏会を予定しております。
更には来年一月の望月展の折には、望月氏のジャケットによるCD発売を記念して、つのだたかし、波多野睦美による美しい歌声と19世ギターによる至福の一夜を予定しております。
美術と音楽、舞踏などによるコラボレーションが入りにくいと言われる画廊の扉を気軽に開いてくださることを期待しています。 ●12月7日
昨日からON THE PLATES 版の思い と題して版画の展覧会が始まりました。
近くの画廊、ギャルリー東京ユマニテとの共催で20人の作家の版画がそれぞれ三点づつ展示されています。
2004年、5年を版画年と銘打って、各地で版画展や版画のシンポジウムが開催され、その一環として2軒の画廊で版画年の催しに協力させていただきました。
東京芸大美術館ではHANGAと題した展覧会が開催中ですが、北斎、広重やロートレック、ゴッホ、ピカソ、ムンク、クレー、ウォホールなどの代表作が展示され、ゴッホが使ったといわれるプレス機も中央に置かれ興味深い展覧会になっています。
浮世絵の伝統を持つ日本に於いて今一度版画を見直そうとこの一年間盛りだくさんの企画が組まれています。
版画ならではの表現を再確認してみてください。 ●12月17日
いよいよ年の瀬、恒例の綿引展を開催しています。
綿引独特のクリアグラフはますます進化しています。
透明アクリルを何枚も重ね合わせ、平面を重ね合わすことで立体的な表現を可能にし、この時期ならではの眩しいくらい明るく、浮き立つような躍動感あふれる世界が繰り広げられます。
明日はそんな楽しい綿引ワールドに囲まれて、佐藤達男さんのクラシックギターのクリスマスコンサートを予定しています。
すでに予約でいっぱいで多くのお申し込みの方にお断りをすることになってしまい申し訳ありませんでしたが、それだけ多くの人たちが画廊で楽しむ事を期待しているのだと感謝の気持ちでいっぱいです。
アートを身近にの思いが少しづつ伝わっているのかもしれません。
GTUではこれまた不思議な世界、桑原展が同時に開催中です。
わずか5点の出品ですが、なるほどこれしか制作できない理由が作品を見ればよくわかります。
巧みに細工された真鍮や銀の小箱の中に、良くぞこれほどという極小の世界が創りあげられていて、スコープを通して覗いてみると、そこにはフェルメールが描くような中世の部屋や街路が出現します。
箱にわずかに開けられたピンホールに光を当てると、窓から差し込む朝の眩しい光、夜空に流れる彗星、かすかなランプの光、鏡に映る天使の手、際限なく現れる光と影に幻惑されながら、スコープから一刻たりとも目が離せなくなります。
二つの展覧会、それぞれに趣のある世界をお楽しみください。
●12月23日
街はクリスマス気分で私もあやかりたいのですが、綿引展、桑原展ともに好評のため、休日も開けることにして休み無しで頑張ります。
先週のコンサートも100人近くの方がお見えになり、心にしみわたるようなギターの音色を堪能していただきました。
はじめて画廊にこられる方も多く、音楽のお好きな方に美術の良さを知っていただくいい機会にもなりました。
中には作品を買っていただいた方もいて、音楽を通じて美術がより身近になればとの思いが少しかなったのではないかと喜んでおります。
来春は望月通陽展の折につのだたかしの19世紀ギター演奏と波多野睦美さんの美しい歌声のコンサートが予定されています。
また音楽と美術の新しい出会いがあるのではと期待しています。
●12月27日 いよいよ明日大掃除して画廊も冬休みに入ります。
先日も書きましたが新しく移転してからあっという間の一年でした。
出品して下さった作家の方々からは作品を通してすばらしい感動を頂戴しました。
感動を呼び起こした作品を購入していただいた多くのお客様には感謝の気持ちでいっぱいです。
忙しく展覧会に追われる毎日でしたが、新しい作品に出会える喜びで画廊に行く毎日がこれほど楽しかったことはありませんでした。
この喜びが来てくださったお客様にも伝わったのでしょうか、ともに楽しく喜びにあふれる一年を過ごすことが出来たのはこの上ない幸せであります。
展覧会を企画し、新作を発表してもらう、その作家の集大成の中から好きな一点を選んでいただく、当たり前のようですが、画廊の役割とはそうしたものです。
多くの画廊がそうした機能を果たさず、オークションや同業者の交換会が桧舞台であったり、同業者に右から左へ作品を転売することが主であったり、デパートにその意向に沿った作品を卸すことが仕事であったり、場所だけを提供することが生業であったり、美術商、画商、画廊という名前に果たして相応しいのかどうか疑問に思うことが多々あります。
私も傍から見ればまだまだ画商らしい仕事をしていないかもしれませんが、今年一年授かることが出来たこの喜びを糧に、来年もまた皆様に喜んでいただく企画を考え、お客様の期待に応えうる画廊となるよう頑張ってまいりますのでご支援よろしくお願いいたします。 |