山本麻友香氏インタビュー

・・・山本さんの作品は、一見すると子供や動物の愛らしい仕草を描かれているように見えますが、いや待ってよと、それだけではない何かを感じます。

「white antler」という作品があるんですが、私は実際に見たものでなければ描けないので、角を粘土で作って着色して写真に撮りまして、少年の頭につけるように描いたんです。写真が基ですから段々と映像的になってしまって、自分がイメージしたものと違ったので一旦それを消して、なるたけ平面的に見えるようにして、その上に全然違う空間をもってこようと思いました。それは一見すると分からないかもしれませんが、そこに違う空間があると見る方は違和感を抱くであろうと、それは100%心地の良いものではないから、何気なく通り過ぎようとすると、「ん?ちょっと待って、何か変だな」と、もう一度振り返って見てくれる。そういう作品にしたいなと思っています。

・・・違和感のある空間ですか。それは描き始めた当初からありましたか。

2000年にテレビの画面を描いた作品の頃は全然違う意識でした。それまでは、自分のストロークで銅版画を描いていたので、それがとても心地よくて、でも段々と作為的な自分の線が嫌になって、行き詰まってしまったんです。それで何も描けなくなってしまって、もう一度絵画の楽しさを思いだせないかと四苦八苦しました。

・・・2002年にお子さんを出産された時に描かれた作品は、かなり暗かったですね。でも今回例えば「white antler」には、肩口に傷があってヒリッとするけれども突きつけられるような傷ではない。むしろ優しい眼差しを感じるといいますか。

はじめは傷はありませんでした。服も着ていましたし角もなかったんです。最後に頑張って傷を入れて、すごく愛しいものになりました。何故かと聞かれても説明できないんですが、私は愛おしいものを描きたいんです。

・・・ただ、愛おしいという言葉は、自身に対しては、苦しい、つらいの意味があるみたいですよ。

だからでしょうか。作品を手放す時はとてもつらいです。言葉にするとアホみたいかもしれませんが、自分の子供みたいなものなんですよ。それに完成した作品というのは、もうこれ以上のものはないと思って創った作品ばかりですから、そのたびにもう二度と描けないのではないかという恐怖に苛まれて、もうできないと家族に泣き言を言ってしまうんです。

・・・それはご自身の魂を削られて描いているからでしょう。生きとし生けるものは必ず死ぬ運命にある。それしかない命というのは愛しいものですよね。今それを1番忘れているような気がします。だからといってヒューマニスティックな目線だけで絵を描かれているわけではないのは分かります。

一つだけ見る方にサービスしているところがあって、サービスという言葉は使いたくないんだけれども、今の子供は勉強ばかりしていて、絵の授業とかも消えつつあるじゃないですか。実際に進学校は美術の授業がなくなっているんですよね。それじゃダメじゃないかと思って、私の作品が美術館に展示されたら、子供達が喜ぶようなサービスがしてあって、ここ(deer boy)に小さいゾウさんがいるんですよ。まだ他にもいるんですけど内緒です。

・・・トリックアートとかとは全然違うけど、発見する喜びがありますね。

それは作品が仕上がってから考えたんですけど、それが絵を好きになるきっかけになってくれればうれしいなと思って、実は2007年のカレンダーの表紙になりましたBLUE・PONDにも描いていて、ゾウや鹿、イルカにアザラシもいるんですよ。自分の絵画性とは別なんですけれども、今回もちょっと描いてみたんです。

〜18日(土)まで。

 

(c)YAMAMOTO MAYUKA