奥山泉氏インタビュー

・・・タイトルのつけ方。

見たままの題名をなるべくつけるようにしています。例えばこの作品であれば「杖をついて立っている」というタイトルにしました。私がギックリ腰になり杖が なければ歩けない状況になってしまった時に、このイメージが湧いて来たからです。そのイメージから発展して、以前から気になっていた老人の危ういけれど美 しい立ち姿をオーバーラップさせて作ってあります。すべての作品は私の日常生活の1コマから、立ち上がってきているので、日常生活の中で生じる出来事に起 因して、形や素材を選び、そこに自分の考え方を結びつけて、作品として出来上がってくる感じなんです。

・・・素材選びは。

なるべく自分のイメージに近い木を探しに森林組合に行きました。今回展示しました木は、殆どが沖縄産のデイゴや琉球松を使用しています。デイゴの花は、沖 縄県の県花でもありエリスリナとも呼ばれていますが、幹はスポンジみたいに柔らかいので加工しやすく、漆器材料として使われているんですよ。今回は腰の曲 がり具合のカーブを重要視し、松の木の曲がり具合をいかし老人のごつごつした皮膚感覚の手触りが感じられる木を探しました。

・・・素材の持っている力を生かしたプリミティブな力強さが、不思議なエネルギーを感じさせているんですね。

「杖をついて立っている」は、危ういんだけども大きい迫力というか力強さも欲しかったので、木のフォルムを生かしながら彫っています。自然の作り出した微 妙なバランスのとれた綺麗な形と、自分の作り出す部分がうまく合致するように工夫しています。でも自分の気持ちが入り込みすぎてしまうと、作りこみたく なってくるのも事実なんですよ(笑)。

・・・平面と立体の関係性を教えて下さい。

特に意識してませんが、関連があると思うんです。曖昧な言い方になるのは、展示してみてはじめて気がつくこともあるからなんです。「鳥が頭に止まってい る」は、頭に鳥が止まって困っているさまを彫ったものですが、実際の鳥をモチーフにしたのではなく、突然やってきた何か。不意の出来事や困った問題など、 いろいろ意味が隠喩的に含まれているのです。けれど壁面に展示した作品は、私が雪国育ちなので、寒さに凍えながらも楽しそうにさえずっている鳥のいる風景 を作りました。ですから鳥というキーワードが共通していても、心理的な内面を描いた作品と心象的な風景(平面の作品はリバーシブルになっている)では、似 ているようで似ていない。ただ自分の心の中では、行きつ戻りつしながら制作しているので、展示をすると新たな発見を覚えますね。作りたい形にあわせて素材 を選んでいるので、統一感がないかもしれませんが、そういうことも包括して、全部それを出すことで何か見えてくるのではないかと思い展示しました。

・・・心理的な作品には、狂気めいたものも感じますね。

それはよく言われます。 たとえば鳩を描いた作品も、私の後をずっとついて来る鳩がいまして、可愛いけれど何か変だなと思ったことから作りました。綺麗や可愛いだけじゃ終わらせた くなくて、狂気じみたところや不安も表現したいなと思っている気がします。改めて考えてみると。「水分が苦手な花」では、私の家にサボテンみたいな変わっ た形の植物がありまして、水をやって大事にしていたんですが、段々枯れていったので死んだと思い捨てたんです。そうしたら元気になってぐんぐん育ってい き、「瑞々しい姿なのに水分が苦手なんだ。植物にもいろんなタイプがあるんだなぁ」と知りました。日常生活を送りながら、そういう新たな発見をするので、 形を作らずにはいられないんですよ。なぜ作るのかとよく聞かれるんですが、それは自分のリハビリのためなのかもしれません。作っているから、自分がここに立っていられるような気がしています。

・・・これからの展開は。

今年は展覧会を毎月のようにやっております。4月5月に東京でグループ展をやり、7月は沖縄で個展、今回の展覧会の後、山形での展示も控えています。今まではあまり発表してこなかったので、ここ一年二年は集中して発表するつもりなんです。

〜8月12日(土)まで。

(c)OKUYAMA IZUMI