服部知佳氏インタビュー
・・・まず創作の基調となる主題からお聞かせください。
「ゆらぐ感じ」といいますか。ピタッと止まっているのではなく動いているもの、その空気感やそれをとり巻く空間みたいなものを表現しています。
・・・植物をモチーフにしているのは、生命を意識されてのことでしょうか。
そうですね。昨日と今日では、絶対に同じ形ではないもの、それもまた「ゆらぎ」につながるのではないかと思っています。物の形をそのまま描くというよりは、生きている動きを感じて描いているんです。植物にこだわっているわけではなくて、猫や金魚など身近なものにも愛着を感じています。
・・・身近なものを観察することによって、イメージが表出するということですか。
ええ。実際のものを見ることでイメージが湧いて構図が浮かびます。
・・・服部さんの作品は、色の使い方が独特ですね。夜明け前の幽かに光がさしてきて、色が兆す瞬間。その瞬間を描いてらっしゃるように思うのです。強烈に目に飛び込んで来るというよりも、薄い皮膜の中から生まれて来たばかりのイメージというか、すごく新鮮な印象を受けますね。
自分の中でもそういう瞬間を感じています。ただ私のイメージでは、朝というよりも、夜のしじまの刻々と移り変わっていく青の世界に色が射してくるような・・・。今までずっとモノクロームの版画を制作していましたので、色を使うことが楽しいんです。
・・・大学時代は版画を専攻されていたとお聞きしましたが、版画を選ばれた動機をお聞かせください。
子供の頃からずっと油絵を描いていたんですね。油絵はそれなりに自分の思うところがあって描いてたんですけれども、新しい技術を身につけたい気持ちから版画に対する好奇心が芽生えて、版画科に入学しました、そこで木版画と銅版画に惹かれましたが、木版画を専攻しました。ただ、今から思いますと、版画というのは、すごく技術がいるものなので、学生時代はどちらかといえば絵の中身よりも、技法にすごく専念してしまってところがあったのではないかと思っています。彫って刷る行為は、なかなか自分の思い通りにはならなくて、もどかしさを少し感じていたんです。それで卒業してからは、子供の頃からずっと描いていた油絵に、再度取り組んでみようと思ったのです。でも版画をやめたわけではありませんし、機会があればまたやりたいと思ってます。
・・・版画はプロセスを踏まなければいけないけれど、油彩と言うのは、直接的に自分の思ったとおりの色が出せるというメリットはありますよね。
私の性格にはそれがとても合っていると思います。自分がこういう色を作りたいと思って、パレットに作った色をそのままのせて、違ったら擦って消したりとか、塗り重ねることができる。ダイレクトに色が使えることは、自分の感覚や感情をそのまま描くことが出来るので、とても魅力を感じているんです。
・・・自分の思った通りの色が出るというのは、とても気持ちがいいでしょうね。世界は光によって、色んな色にあふれているけれども、個々人の色の感受は全て違っていて、例えばアルチュール・ランボーが「Aは黒、Eは白、Iは赤、Uは緑、Oは青。母音たちよ」(母音より)と詩を読んだように、表現する色は、自分自身で生み出しているのではないかと思うんです。
友達と電話で話をしていて、今話しているのは何色なのかなと思うことはよくありますね。言葉を色に変換しているというか。ですから画面に描いている色も、植物本来の色ではないんです。例えばこの空間を創れる色。私の思い描いた空気感が出せる色を選んで表現しています。それは光の反射で感じる色ではなく、五感で感じる色なのかもしれません。ですから作品から明るい波動の広がりが伝わればとても嬉しいく思っています。
〜7月15日(土)まで。
(c)HATTORI CHIKA