GALLERY TSUBAKI ギャラリー椿

韓国 テグ・アート・エキスポ 2003
2003・5・10〜5・16
ギャラリー椿 参加
小林裕児 金井訓志 作品を紹介。

5月8日

韓国テグのアートフェアーに招待されて行ってきました。
10日間の滞在でしたが、韓国日記をつけましたので日にちは遡りますがギャラリー日記の別バージョンでお伝えします。

 5時起きで韓国アートフェアーへ出発。
画廊で出品作家の小林裕児さん、金井訓志さんと待ち合わせて成田へ。SARS騒ぎなのか空港も閑散としている。
韓国画廊協会会長の金泰樹さんの招待で大変有り難いのだが、あまりに急な話で作品を手荷物で持っていくことになり、大きなパッケージを抱え搭乗手続きを済ませる。かなりの重量オーバーだったがチェックされる事もなく無事通過。
韓国の空港でも心配したが中を開けさせられることもなく無事入国。
国内線に乗り換え に到着。
金さんの出迎えがあるかとの淡い期待は空しく、誰も来ていず、どうやってこの大荷物をタクシーに乗せるか途方にくれたが、空港の観光案内の日本語のできるスタッフが二人がかりで親切にもワゴンタクシーを呼んでくれて無事会場に到着。
タクシーの運転手がこれまた親切で、二人で運ぶのも大変な荷物を軽々と肩に抱え会場の中まで運んでくれるではないか。
来た早々の重ね重ねの親切に大感激である。  
会場は東京国際フォーラムに匹敵するくらいの建物で会場もゆったりとしていてNIKAFとは比べ物にならないくらいブースも広く取ってある。
これだけのスペースがあるのが早い時期に判っていたらもっと大作を持ってきて並べたかった。
となりのブースには私と同様中国の画廊が招待されたのだが、SARSのためオーナーが来る事が出来ず、少し残念。
と言うのも、ここ数年中国の経済力の上昇とともに美術にも関心が高まり、北京、上海にも日本の画廊も進出し活況を呈している事から、中国の画廊とコンタクトを結ぶ事も今回の目的の一つだったのだが。
8時半頃展示も終了し空港に併設しているホテルに帰りカルビの煮付け定食を注文。
毎回行っては吃驚するのだが、相変わらず料理につくお惣菜の多いのには驚く。
朝早くに出発した事もあり部屋に帰ってバタン・キュー。

5月9日

アートフェアーのプレビューで忙しいにもかかわらず、金会長が朝早くからホテルに迎えにきていただき感謝。
ホテルで韓定食の朝食を済ませ、先ずは金さんのメキャン画廊に向かう。
以前、ソウルの画廊に幾つか行きあまりの大きさに驚いたが、ここは私の画廊とそれほど変わらない大きさで何故だかほっとする。
仕事が山のように溜まっているようで、早々に退散し、近くの画廊を訪ねることにする。
この辺りは家具のお店と寝具店、そしてウェディング衣装の店が軒並み並び、きっと結婚前の人たちが訪れるエリアになっているのだろう。


ウェディングのお店が立ち並んでいます。


古い枕の布地がとてもきれい。古い生地を絵の素材に使う小林さんは思わずにやり

画廊も集中していてギャラリー通りと言われる通りもある。
結婚前の人たちは家具などと一緒に美術品も買うのだろうか。
新羅画廊、是空画廊に寄ってみる。
テグでも一、二を争う画廊で、ソウル同様素晴らしい建物で空間の広さに思わずひれ伏してしまう。
メキャンではほっとしたが、矢張りこちらの画廊はスケールが大きい。


二人と作品のサイズを比べてみると画廊の大きさがわかります

行き当たりばったりで水槽に魚が泳ぐ店に入り、昼食を注文。
何せ何処に行ってもハングル語ばかりで漢字の表示が殆どなく、英語表示も公共施設以外はあまり見られないのでこればかりは不自由する。
メニューもわからず奨められるままに注文すると鱈?のちり鍋が出てきた。勿論それ以外の魚の料理も盛りだくさんでとても美味しく大正解。
何の種類かわからないがいつでもキムチとともに生野菜がたくさん出るがこれがまた美味しい。これで一人1000円だから申し訳ないような気がする。

昼食後、テグでは有名な薬令市通りに行ってみる。
ここは韓方薬の卸売りのお店が所狭しと並ぶ通りで、丁度お祭りの最中で、ありとあらゆる薬に関係する食品が並び大勢の人で賑わっていた。


果実酒がたくさん


お菓子も全て薬草が含まれている

夕方会場に戻り、展示の最後の準備をする。

5時からプレビューが始まる。
テグの市長を始め、地元の有力者が来て入り口でテープカット、それにしてもこんなにたくさんでやらなくても。

金会長の挨拶があり、殆ど何を言っているのかわからないのだがギャラリー椿とだけははっきりと聞こえた。
既に会場は大勢の人で賑わっていて、私のブースにもたくさんの人が見にきてくれる。
毎日新聞社の人が二人の作家にインタビュー。ちなみに日本の毎日新聞社とは関係がないそうだ。
日本語ができる人がいればということで会場に探しに行くと、ソウルで一緒に食事をした具さんがいたので無理矢理引っ張ってきた。
具さんは日本の美術大学で勉強していて日本語ができるので助かった。
彼の作品はメキャン画廊のブースに出ていて金箔、銀箔を使った作品を発表している。


ギャラリー椿のブース


3階会場の椿のブースがある通り

夜7時からは別会場にてディナーパーティーが始まる。
たくさんのテーブルが並び立派なパーティーである。ただし出てきた料理にはがっかり。幕の内弁当で何もここまで来てお弁当を食べなくても。
何人かの挨拶の後、画廊協会からテグ市に寄付される美術品の贈呈式があり、リーウーハンを始め韓国の有名作家の大作が5点寄付された。
市や地元の財界からも2千万円に上る寄付があり運営費として使われている。
この辺が日本と違う所で、官民一体となって文化の活性化に努力をしている事が羨ましい。
運営の手伝いも学生からご婦人方まで地元の人たちがボランティアで協力している。
画廊の志も高いが、周りの人たちの意識も高く、日本の文化レベルの活動を考えた時はるかに遅れてしまったのではとの感を否めない。
その後のセレモニーも盛大で歌あり、演奏あり、アートとのコラボレーションのファッションショーありで楽しいひと時を過ごした。
また、うれしい事に途中の福引で大きなマッサージ器が当たりホテルに帰り、疲れた身体を癒すにはぴったりの賞品だったが、帰りの荷物がかさばりそう。
帰りのタクシーも夜遅いためなかなかつかまらないで困っていると、コムスン画廊の黄さんと現代美術館のチーフキューレーターのチャンさんが電話で呼んでくれてなんとか帰ることができた。
またまた親切にしていただき感謝。

5月10日

ホテルのマネージャーが会場まで車で送ってくれる。
同じホテルに泊まっているアートフェアーに参加の女性が二人同乗する。
若い方の女性はとても美しく、一緒に車に乗っているだけでもどきどきする。
金井さんもこちらに着く早々から言っていたが、こちらの若い女性達は皆そろって美人ぞろいである。プチ整形でもしているのだろうか。
小林さん、金井さんの二人は博物館見学とショッピングで別行動。
会場には早々に中学生らしき子供達がたくさんきている。
いよいよ展覧会の始まり。
若い女性達が小林さんや金井さんの作品を興味深く眺める。
小林さんが持ってきてくれた1500円の画集が何冊か売れる。
金井さんの資料を持ってこなかったのは失敗。
言葉の通じにくい外国のアートフェアーでは英文の資料が必要である事を痛感。
同時に画廊を紹介する資料も必要である。日本では資料をただでもらえると思っている人が多いが、こちらでは画集などは多くの人が買ってくれそう。
今回は初めてのこともあり、作品が売れる事は期待していないのだが、広く知ってもらう意味ではこうしたものはちゃんと用意すべきであったと反省する。
コムスン画廊の黄さんが熱心に話し掛けてきた。
彼は若手の作家中心に企画している画廊で、日本の現代美術系の画廊と付き合いがあり、交流展も盛んにやっているとの事。
日本の学芸員や美術記者などとも親しく、韓国の作家を熱心に日本に紹介している。
彼の案内で主要な画廊を紹介してくれる。
ここはいい画廊、ここは企画の内容が悪い等とはっきりと私に教えてくれる。
私も悪い方に入らないよう気をつけなくては。
私のところの企画は多分テグでは難しく、ソウルの方が受けるだろうとの事で、こちらは多少泥臭いものの方が受けるのだそうだ。
昨日廻った画廊は皆洗練されていたように思うが、都会の画廊のプライドがそう言わせるのかもしれない。
ほぼ廻った後、さかんに食事を誘ってくれるのだが、誰もいないブースが気になり、丁重にお断りをすると何と後からお菓子とケーキの差し入れを持ってきてくれた。どうしてみんなこんなに親切なの。
全体に作品のレベルはそれほど高くはないが、みんな韓国の風土、歴史を背景にしたナショナリズム的な表現が多い。
インターナショナルになればなるほど、無国籍ではないその国独自の文化を表現しなくてはならないのではとの思いを強くした。


コムスン画廊のブース 美貌の人気作家ハン・ジェンマの作品で全て完売


中国の画廊のブース 右の作家はベイスギャラリーでも展覧会を開催した注目作家


ウー・ボン・アートミュウジアムのブース 韓国の色彩を感じさせるいい作品で良く売れていた

その事は、夜に金さんの招待で夕食を共にした朝鮮画廊のオーナーで韓国画廊協会の会長だったクウァンさんの話からも十分に伺えた。
招かれた場所は市内の高級料亭で、自然食に近い山野草や海草をふんだんに使ったカルビ専門店でとても美味しい料理で大満足。
他に一番韓国で歴史のある東山房画廊の二代目オーナー朴さんも一緒だったが、物静かで控えめなジェントルマンで、クワァンさんの含蓄のある話しを私達と同じように熱心に聞き入っていた。
帰りもまた昨日同様にタクシーに乗るまで、大先輩のクワァンさんが見送ってくれた。

5月11日

朝、約束の時間に小林さんが現れない。
朝早くからサウナでマッサージを頼んだら、30分くらいで終わるつもりが、何とご丁寧に1時間半もかけて身体中を揉んでもらったそうで、大遅刻でフラフラになって現れた。
朝食の時間がなくなったので私は会場に向かい、二人は最後のショッピングを済ませて日本に戻る予定でここでお別れ。
忙しい旅だったが多分充実した時を過ごしてもらえたと思う。
昨日も一緒だったが、今日もホテルの車に同乗してきたのは美人の女の子。
一人残され寂しくなったが、毎日この美人と同伴出勤ができると思うと心うきうき。
聞いてみると、以前に2度ほど訪ねた韓国で一番大きいカナギャラリーのキューレーターの女性で、李さんと言い日本語も堪能である。
この画廊はソウルの画廊街インサドン二軒と北側にある山の中腹で日本で言えば芦屋のような高級住宅地にとてつもなく大きい画廊を一軒もっている。
その上、その大きな画廊の横に自前のオークションハウスまである。
街にある画廊も素晴らしい空間だが、この山にある画廊はまず展示空間が恐らく私の画廊の倍以上の部屋が4室くらいあったと思う。さらにはギャラリー内に高級フランス料理店を併設しており、アートグッズのショップも広く取って自前の洒落たグッズを売っている。他にも野外ステージがあり色々な催しが行われるみたいだ。
もう一つの驚きは、街の画廊とここを結ぶ専用のシャトルバスまで用意してある。フランスに支店もあるそうでどうしてここまで大きな物が持てるか驚異の他ない。
それだけにここのブースには高額品の作品が展示してあり、リーウーハンの大作や、ニューヨークで活躍した韓国の代表作家キム・ワン・ギーの大作などが飾られている。
この作品は3500万円だそうで、もう亡くなった作家だが同じように物故作家の何人かはこの位か、それ以上の値段がするそうである。


カナギャラリーのブース 左側がキム・ワン・ギの作品で左端の作品が3500万円 右側はリー・ウー・ハンの作品

日曜日という事で期待したが若い人たちが多く、BuyArtのキャッチフレーズ通りには今日は行かないようだ。
夕食はホテル横の空港のレストランで食べようと歩いていると、偶然にもカナギャラリーの李さんにばったり出会い、一緒に食べる事になった。
プルコギ定食を注文、日本で言えば牛丼みたいなものだが凄く美味しい。
彼女が頼んだキムチチゲもおいしそうで、次はこれにしよう。
美人との夕食でラッキーだったが、その後は皆様のご期待に添えることもなく一人部屋に帰り早めの就寝となった。

 

5月12日

朝食は久し振りにサンドイッチにコーヒー、キムチのない食事はこちらに来て初めて。
今日はカナギャラリーの社長も来ていて一緒に会場へ向かう。
女性の方でアートを担当しているそうで、オーナーは古美術を中心に仕事をしていて、今回はテグには来られないそうだ。
金会長の紹介でボランティアにきているご婦人が小林裕児さんの作品を買ってくれた。
全く売れないと思っていただけに大感激である。


右側のご夫人が小林作品を購入。 左の夫人がNICAFの時に来日

たくさんのご婦人達がお手伝いをしているのだが、多くは金会長が美術講座で教えている生徒さん達のようだ。
NICAFで金会長が来日した時に一緒に来たご婦人達もその生徒さんたちで、
夜銀座でご馳走をしたお返しに明日の夜ご馳走をしてくれるとの事で楽しみにしている。
その一人に店番をしてもらって、昼食にでかける。
メニューは相変わらずわからないのだが、石焼ビビンバをと思って注文をしたら普通のビビンバでがっかり。
6,7品のおかずが付き、とても昼とは思えないほどの量であるが美味しくてついつい食べてしまう。
向かい側のブースはテグで一番大きいプラザ百貨店のアートグッズ売り場になっていて色々と面白い物を並べている。
ナム・ジュン・パイクのグッズをいくつか買う。
すると何と親切にたくさんの他のグッズをおまけにつけてくれる。
買った金額よりおまけの方が高いのではないか。
そのブースには画集もたくさん置いてあり、韓国の古美術や著名な物故作家の画集を見せてもらう。
韓国絵画のレベルはそんなに高いと思わないが、韓国の素朴な優しさを表現した絵が多く今の現代美術にも通じている。
そんな事で画集を見ながらいろいろ質問をしていると、そうした作家のポストカードまでプレゼントをしてくれる。本当に申し訳なくお断りするのだが構わずプレゼントをしてくれる。
親切なのは向かいのスタッフの女性だけでなく、受付の学生やカナギャラリーの女性までがお菓子やコーヒーの差し入れをしてくれる。
こんなに女性達に歓迎されたのは生まれてこのかた初めての経験であるが、兎に角、到着以来韓国の人たちの親切のオンパレードには感激している


受付のボランティアの学生さん

日本にいると、まだ韓国には根強い反日感情があり、映画や音楽を始めとする日本文化も最近になってようやく解禁され、日本人画家の作品が売れることなんてまず不可能のように思っていただけに、そのギャップに驚かされるばかりである。
政治レベルでは難しい問題があるのだろうが、民間では既にそんな事はなく、かえって日本人の方が気を遣い過ぎているのかも知れない。
隣りのブースの中国の画廊も本店は台北にあるのだが、北京にも画廊を出して中国本土の作家の展覧会を積極的にやっていて、これも政治レベルでは国交のない本土と台湾の関係を考えると不思議なことである。
そう言うことを考えると、今日小林さんの絵が売れたことは国家レベルでは画期的な事かもしれないが、日本人の絵が韓国で売れるなんて事は向こうからすればごくごく当たり前の事に過ぎないのである。
日本とか中国とか韓国とかではなく、金さんはいつも私に歴史があり共通の文化を持つ日中韓を中心にアジアの独自の文化を西欧に向けて発信して行こうと言う。
彼らの美術に対する意識の高さには敬意を表さざるを得ない。
どれ位の日本の画廊の人たちがこうした意識で美術の仕事に携わっているのだろうか、考えなくてはいけない。
終わり間際にコレクターらしきご夫婦と娘さんが熱心に作品を見てくれた。
ご主人は30年前に大阪府立大学で学び、奥様も奈良女子大学で学んだそうで、日本語で説明をさせていただいたが、買っていただくまでは行かなかったが小林さんの作品に関心を持ってくれた。
売れることは期待しないで参加したのだが、一点でも売れると人間欲が出て、もしやと思ってしまうものである。
それにしてもうれしい一日であった。

5月13日

午後からの人出は前日までに比べるとだいぶ多い。
特に若い女の子達が多く、年配のおじさん達はあまり見かけない。
それと驚くのは、学生が団体で見にくる事。
美大生ならわかるが、小学生や中学生の団体が先生に引率されて見に来る。
極め付きは幼稚園の子供達で、お行儀良く先生の後をついて見て廻る。
見終わってから玄関を出たところで、みんなでお弁当をひろげているのを見ていると思わず微笑んでしまう。
果たして日本ではこうしたアートフェアーに幼稚園の子や小学生の子供達を連れて来てくれる先生がいるだろうか。
子供達だけではなく、こうやって若い人達が美術を身近に感じてくれる機会を持てるのがとても羨ましい。
当然買う人達ではないが、熱心に質問をし、資料を見てくれる。
中には、私がアーティストでもないのにサインをして欲しいと言ってくる若い子達もいる。
サインなどしたことがないから、どう書いていいか戸惑ってしまう。
終了間際にまたまたスタッフがハンバーガーとジュースの差し入れをしてくれたが、今日はこれから金さんの生徒のご婦人方から夕食の招待を受けていて、申し訳ないがこっそりとカナ・ギャラリーの李さんにまわす事にした。
夕食の場所は大きな石彫が門構えになっているいかにも高級そうなレストランで、日本でご馳走したお店と比較すると思わず腰が引けてしまう。


レストランの石彫の前で 韓国ではあちこちで見かける男女の道祖神だがここのは大きい

相変わらずたくさんの料理が出るなか、金さんがここのローストビーフはおいしいといって奨めてくれたが、肉と言うより厚い紙を食べているみたいでちっとも美味しくない。
肉は同じなのにカルビだと美味しくて、西洋風になるとまずいのはどうしてだろう。
ご婦人のうちお二人がご主人同伴で、お二人とも韓方医だそうで、日本では東洋医学イコール漢方となるが、針灸を中心にした350年の歴史を持つ韓国独自の韓方医学があるのだそうだ。
食事の後、テグ・ホテルのバーに行こうという事になり、みんなでそちらに向かう。
そちらではもう一人の御婦人の旦那さんが待っていて、ワインやオードブルをどんどんと注文する。
ご主人にどんなお仕事をされているのか尋ねると、何とこのホテルの社長さんだそうで、なるほどどんどんとお酒や料理が出てくるわけだ。
日本に来た時に金さんが安いホテルでいいからと言われ、日本橋にある小さなビジネスホテルを取ってあげたが、まさか泊まる人の中にテグの大きなホテルの社長夫人がいるとは思ってもみなかった。  
日本でたいしたもてなしもしなかった私をこうやって大歓迎してくれるとは恐縮至極である。
金さんに美術史を教わる生徒さんはみんなお金持ちの奥さん達のようで、ボランティアでアートフェアーを手伝ったり、今回のフェアーの作品をいろいろな所で買ってくれたりと、いい生徒さんをたくさん持っていて羨ましい限りである。
ただ画廊にきてくれる人を相手にするのではなく、金さんのように一般の人達に美術に触れる機会を作ってあげる事も大切とまたまた勉強させられた。
もっとも金さんのように講座を持つだけの学識がなくてはいけないのだが。
韓方医のお一人が夜遅くにもかかわらず、かなり遠回りをして私をホテルまで送ってくれた。
また今度夫婦そろって日本に行きますといってくれたが、どんなお返しをしたらいいのか、これだけ親切にされると少し気が重くなる。

5月14日

朝起きると雨。
こちらに来て初めての雨だ。
今日はこの天気では暇と思い、テグ駅の中にあるロッテデパートへ買い物に出かける。
開店前の早い時間に着いてしまい、開くまでにだいぶ時間があるので駅の外に出てみたが何処もまだ閉まっていて閑散としている。
尤も駅の周りはたいした建物はなく、繁華街はもう少し先にあるようだ。
仕方なくタクシーで見かけたスーパーマーケットに行く事にした。
買い物と言っても別にないのだが、一つだけ買いたい物がある。
それは、最初に韓国を訪ねた時に買って帰った穀物を20数種類ブレンドして粉状にしたきなこのような食物で、その時の商品名は神仙食と言ったが、これを牛乳と蜂蜜に混ぜて毎朝飲んでいるのだがすこぶる体調がいい。
何とか日本で手に入れようと探すのだが見つからず、神仙食という名前しか手掛かりがなくネットで検索しても見つからない。
最初に行った時は免税店やデパートなどあちこちで見かけたのに不思議に思いつつ、韓国に行く人に場所を教えては買ってもらっていた。
ホテルの人やカナ・ギャラリーの李さんに聞いても良くわからず、とにかくデパートに行ってみようと思っていたのだが、何とスーパーのエスカレーターを降りた所に山積みにされているではないか。
種類もたくさんあるし、お土産用に小さくパックされた物まである。
かさばり重たいのだが、画廊のスタッフや友人にも頼まれていたので大量に買い込む。
ついでに韓国海苔を買い、両手に大荷物を抱え会場に戻る。
カナの李さんに見せると、なんだこれはミスカルという名前で神仙食と言うからわからなかっただけで、何処の家庭でも朝食代わりに食べる物でオートミルみたいな物だと言って笑っていた。
金さんに会って昨夜のお礼を申し上げた。
金さんはいいタイミングとアートエクスポ記念の版画集を奨められ、お世話になっている事もあり買う事にする。
金さんもなかなか商売上手である。
各ブースを廻ってみると、だいぶ赤印が目立つようになった。
私が値段も手ごろでいいなと思う物は矢張り売れているようだが、高額品はあまり売れていない。
韓国も不景気で状況は厳しいようだが、日本で先に開催されたフェアーと比べると活気もあり、金額は別として売れ行きもいいように思う。
私のところの作品も反応はあるのだが、口を揃えて高いと言う。
二人の作家の価格は日本ではそんなに高いとは思わないのだが、外国で売るにはどんな作家も無名であることを考えると、価格については考えなくてはいけないかもしれない。
夕方からまた雨が強くなったが、人は相変わらずたくさん来ている。
7時から画廊協会主催のディナーパーティーが会場の上にあるレストランで開かれ、各出展画廊のオーナーが招かれた。


朝鮮画廊のオーナーと他の画廊の女性オーナー達

ステーキをメーンにしたコース料理だが、できれば韓国料理をと思ってしまう。
韓国の人にすれば毎日韓国料理を食べているのだから、こちらの方がうれしいのかもしれない。
年のいった男性が金会長から表彰されたが、聞いて見ると創業30年のお祝いだそうだ。
こういうのを見ていると、韓国画廊協会の人達は一体感があるように思えてならない。
それがこうしたイベントでのパワーになるのだろう。
表彰された方は82歳になられるそうで、とてもそんなお年には見えず元気一杯で挨拶の後に大きな声で歌を謳われた。
そこまではよかったのだが次に私にお鉢が廻ってきた。
アリランでも歌えといわれたが、謳えるわけがなく挨拶だけで勘弁してもらった。
終わった後、新羅画廊のオーナーにホテルまで送ってもらったが、他の画廊の人達はカラオケに行ったようで、とにかくみんな元気なのには吃驚する。
私は疲れ果ててひたすら寝るだけ。

5月15日

朝方まだ雨が降っていたが出かける頃には止みそう。
昼に朝鮮画廊のクワァンさんに呼ばれ、金さんと一緒に会場の地下にある日本料理屋でお寿司定食をご馳走になった。
お寿司定食にもかかわらずキムチや野菜やら何やらとお皿にたくさん盛ったお惣菜が次々と出てくる。
その次にはお刺身、天ぷら、果てはうどんまで出てくる。
これだけでお腹が一杯になるのに、メーンのお寿司がこれでもかとドンと出てくる。
お寿司は目の前の水槽からすくい上げたひらめの握りで、えんがわも盛りだくさんなのだが、つけるお醤油が見当たらない。
クワァンさんと金さんは例の韓国の赤いからし味噌(コチジャン)をべったりとつけて美味しそうに食べている。
さすがにこれにはついて行けず、お醤油とわさびを頼む。
このわさびの色がどうにも原色に近い緑で韓国独特の色をしている。
魚は新鮮で美味しいのだが、食べる雰囲気がお寿司を食べる感じにならないのもこれでは仕方がない。
それにしても韓国の人はよく食べる。
元気がいいのもキムチパワーだけではなく、食事の量から来ているのかもしれない。SARSが近寄らないのも不思議ではない。
金さんだけは太り気味だが、たいていの人がこれだけよく食べるのに太っていないのは野菜を多く食べ、辛いものが代謝をよくしているのだろう。
クワァンさんは立派な紳士で、日本語も堪能で先の夜の時もそうだったが、色々と話をしてくれた。
韓国の美術業界の草創期にご苦労され、現代絵画の普及、画廊協会の設立、外国との文化交流、オークションシステムの構築などこの業界に大きく貢献をされたようだ。
今回はこのようにたくさんの画廊関係者とお話が出来たのは大きな収穫である。
それでも金さんやクワァンさんのように日本語ができる方だからこそ親交を深める事が出来たわけで、他の画廊の方達やブースでの説明でももう少し英語が出来たらより深いお話しが出来てビジネスにも繋がったかも知れず、今回は一人だっただけに余計に語学の必要性を痛感した。
夕食はカナの李さんと約束していたが、カナの古美術部門の社長が来ていて予定変更。
ホテルに帰り一人寂しく夕食を食べる。
一人だと簡素なもので韓国風炒飯を食べる。
終えて帰ろうとすると、先日ご馳走になった上にホテルまで送って下さった韓方医のチョイさんがいるではないか。
週末に横浜に行くのだそうで、今回は入れ違いになるが次回には是非日本でお会いしましょうという事になった。

5月16日

いよいよ最終日。
今朝はホテルの車ではなく、カナギャラリーの社長の車に乗せてもらう。
古美術担当だそうで、あまり話はしなかったが奥さんが絵を描いていて、展覧会のカタログを幾つかもらう。
かなりのレベルで近いうちに日本に行くので見て欲しいと言う事になり、奥さんに私の画廊に訪ねてもらう事にした。
私と小学校の同級生で、大学でも一緒になった青山で李朝専門のお店「李洞」を開いている李君とも親しいそうだ。
李君には最初に韓国を訪ねた時に大変世話になり、カナギャラリーも彼に案内されて行ったのだが、日本では考えられないような大きなスペースを持った画廊で吃驚させられたが、今回こうしてカナの社長やスタッフと会う事が出来たのも何かの縁で、この出会いを大切にしていきたい。
会場は最後と言う事もあってかなりの賑わいである。
隣りの中国の画廊のブースは赤印がたくさんついていて、羨ましいと思うと同時に何とか私のほうもとライバル心をかきたてられる。
作品の質から言うと断然小林さんと金井さんの方が上だと思うが、値段なのか違う理由があるのか売上には結びつかない。
最初はオリンピック精神で参加する事に意義があると言っていたのだが、周りの作品が売れてくると欲が出てしまう。
昨日一緒に食事が出来なかったカナの李さんとお昼を食べる事になり上のレストランへ。
イタリアンを注文する事になったが、韓国でパスタを食べるとは夢にも思いませんでした。
若い女性は何処の国でも同じような嗜好なのだろう。
彼女には、言葉がわからないときには通訳を、廻ってくる書類もハングル語でさっぱりわからないので書き込んでもらったりと大変世話になったのでご馳走するつもりでいたが、外国から来た人にそんな事はさせられないと言って頑として譲らず、結局いい年したおじさんが若い子にご馳走になると言う体たらくであった。
レストランの奥の個室では金さんが生徒のご婦人たちと会食中で先日のお礼もあって挨拶をさせていただいた。
大勢のご婦人に囲まれ金さんも終始ご満悦の様子でした。


これだけ御婦人が揃うとなかなかの迫力です

終わり間際にはまたまた招集がかかり、出展者がみんな集まりワインで乾杯。
お祭り好きなのか、とにかく皆さん元気がいいし、仲もいい。
みんなで盛り上がり、その上私にも最後まで気を遣ってくださりホスピタリティーも最高。
撤収の時も一人でどうしようと思っていたのだが、先ほどの御婦人や、李さん、アルバイトの学生さんに手伝っていただき、あっという間に片付いてしまった。
皆さんとの再会を約しタクシーに乗ったが見えなくなるまで手を振っているのを見て、思わず目頭が熱くなる。
ホテルで荷造りをして最後の夜も一段落。

5月17日

日本に帰る日。
小林さんと金井さんが帰ってからは、一人で何日も言葉の不自由な中で過ごすことになったが、何の不安もなく、時間を持て余すこともなく滞在の日々を過ごす事が出来た。
これも偏に、金会長や、他の画廊の方々、スタッフの人達、そして出会った韓国の人達が皆、私に親切に接してくださったお陰と心から感謝をしたい。
テグ市は、日本で言うと名古屋に当たる韓国三番目の都市で、繊維を中心に栄えてきた人口250万人の産業都市で、有名な慶州も一時間程行った所にあり、自然に囲まれた緑豊かな街である。
今回開催されたコンベンションセンターも2年前に建てられた立派な施設で、こうした建物を含め新しいビルが幾つも建ち、近年目覚しい発展を遂げた都市である。
韓国も数年前に日本以上に厳しい経済環境におかれその立ち直りを危惧されたが見事に立ち直り、こうした文化催事も積極的に開催し、経済、文化両面での発展を目の当たりにすると、今の日本の現状は何とだらしないのかと心から慨嘆せざるを得ない。
官民共に韓国から学ぶ事の必要性を痛感した。
日本の美術界も学ぶ事多々有りで、是非とも来年には多くの画廊が韓国のアートフェアーに参加をしてもらい、金会長の言うように日韓中が手を携え、アジアの文化を世界に知らしめるべきとの思いを強くした。
金会長からも私に日本のコミッショナーになって欲しいとの依頼があり、大歓迎をしていただいた御礼もあり一肌も二肌も脱ぐ覚悟である。
同時に日本のアートのレベルはかなり高く、積極的に海外に出て行くことで新しい市場も確立できるのではないだろうか。
朝早々に、金会長のメキャン・ギャラリーにお礼に伺う。


何から何までお世話になった金会長とスタッフのチョイさん

スタッフのチョイさんにも何かとお手伝いいただき、何のお返しも出来ずに帰るのが心苦しい。
早速に気を利かせて熱い日本茶をいれてくれた。
久し振りのお茶を味わう。
うまい、忘れていた日本の味が蘇ってくる。
今年の10月にはソウルでプリントアートフェアーが開催される事になっていて、メキャン・ギャラリーのブースで私のところの作家の武田史子の作品を展示してくれる事になり、その時にまた来韓して欲しいとの依頼もあり、喜んで伺わせていただく事にした。
金会長に車で飛行場まで送ってもらう。
画廊協会の会長として大忙しの毎日だったろうが、最後までお世話いただき頭が下がる。
ホテルの人が空港のカウンターまで荷物を運んでくれ、これまた行き以上の大荷物を一人でどうして運ぼうか思案していたのだが、大助かりである。
カウンターの女性が気を利かして国内線から国際線に荷物を積み替えることなく成田まで行けるようにしてくれたが、何故日本ではそうした段取りをしてくれなかったのか不親切さに腹が立ってきた。
一段落して出発まで時間もあるのでゆっくりと昼食を済ませていると、先ほどの女性が息せき切って私のところに駆けつけてきた。
何事かと思っていると、彼女は今ひとつ気を利かせ過ぎて、待つのが気の毒と思ったのか一便早いチケットに変えてくれていたのである。
呼び出しのアナウンスもわからずにのんびりと食事をしていた私を探して、彼女は空港中を走り回っていたに違いない。
大慌てで私の手を引っ張り連れて行こうとする。
私が食事の勘定を済ませようとすると、店の女の子が構わないから言っていいと言う。
最後の最後までお言葉に甘え、ただ食いまでさせてもらい飛行機に乗り込む。
既に出発時刻を30分も過ぎてしまい、この時ばかりはばつが悪く、周囲の冷ややかな視線を身体中に浴びつつようやく座席に着いた。
最後に大失敗をしてしまったが、この10日間充実した日々を過ごす事が出来て大満足の旅であった。
韓国に感謝、ハンサムニダ。

お問い合わせ e-mail - gtsubaki@yb3.so-net.ne.jp

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