三桝明子展氏インタビュー
・・・タイトルは「HUMAN CHESS Vol.Children」
今回は「HUMAN CHESS Vol(volume) Children」で,HUMAN CHESSの子ども編なんです。
今までは,あまりテーマを意識せずに制作することが多かったのですが,私たちを取り巻く環境の悪化に,何か自分もできることないかと考えるようになりました。そして,この気持ちを作品の中に,メッセージとして込められないかと思ったのです。
・・・HUMAN CHESSのメッセージとは。またチェス盤を作ろうと思われたきっかけをお聞かせ下さい。
コメントにも書きましたが,世の中のニュースを見ていても,子どもを巡る痛ましい事件が多く発生し,社会自体が一人一人の子どもが生き生きと育つ環境を奪っているように思うのです。子どもはすごく無邪気に色んな思いを抱きながら育っていくはずなんだけれど,社会とか大人のエゴで,駒状態にされて犠牲にされているのではないか。そして私達大人も知らないだけで,もしかしてチェス盤にのらされていて,誰かに,都合のいいように動かされている部分があるのかもしれない。そういう恐怖感もあって,そこに気づけるようになりたいと思い表現に向かったのです。
・・・向かうといえば,よく見るとチェス盤に→が書いてありますね。
市販のゴム製のPタイルですが,タイルの裏に矢印がついていたのに気づき,感動しました。こっちの矢印ならこっちに進むかなとか,ゲーム的な感覚で置いてみたんです。ただ人間というのは,矢印があれば無意識にそちらの方へ行ってしまう。本当であれば自由なはずなのに,そこしか見えないようになってしまう部分があるように思います。
・・・確かにそういう面はありますね。だから美術は,外部から内部を眺める要素が必要になってくる。ただ三桝さんの眼差しは,突き放した鋭い視線ばかりではなく,愛情を持って見ておられるように思うのです。だからなのか皆目をつぶって,瞑想していようにも見える。それに床の上から頭が生え出している形というのは,不思議な感覚を覚えますね。頭部や手などが木彫のパーツに分かれているから,逆に部分から全体を想像することができる。それがとても面白い。
頭部と手だけの作品は顔をつくり,体をつくらないんですが,全身の作品は,逆に顔をつくらないんです。体や顔のそれぞれつくられていない部分は,ご覧になる方々がイメージで創造してくださればいいと思っています。以前から一義的に決めてしまいたくないところが自分の中にはあって,今までそういうところをウロウロしながら制作してきました(笑)。以前私の作品をご覧になった方から言われたことがあるのですが,その方は一週間に何度も展覧会場に足を運んでくださって・・・「自分のコンディションを確かめるために来るんです。自分の体調がいいときや,心が元気なときは作品が床から上がってくるように見えるんですけれど。自分が体調の悪いときは,沈んでいくように見える。それが来る日によって違うから,自分自身を見るために作品を拝見しに来ているんです」その時に,本当に見る人によって様々なんだなと思いました。ですから人体のすべてを作っていたら,作家のこう見て欲しいという思いばかりが先行してしまうのではないかと。私としては,ご覧になる方々が,作り手以上にイメージを膨らませて創造してくださっているように思うのです。
・・・作品のサイズはそれぞれ違いますが,皆同じ楠を使っているのですか。
ええ。楠は彫りやすいですし,例えば大きな作品を作れば,周りの木が中途半端に残りますよね。その残った大きさで次の作品を作ったりとか,さらに残りの小さい木片をつないで作たりとか,なるべく捨てずに木を生かしたいなという思いがありまして。そのままの木をなるべく生かして,頭の色の黒い部分も,着色をせず,バーナーで焼いて黒くし,全体にオイルを塗ってあるだけなんです。なるべく自分が一人でできる方法や大きさで,木と向き合っていきたいと思っています。それに,大きい全身の木彫はいつも見上げながら見る感覚がありますよね。このぐらいのサイズなら座って見てもいいし,小さい子どもでも,上から見ることができる。また作品の頭や手のパーツの組み合わせを変えてもらっても構わないんです。
・・・家族で楽しめますね。最後にこれからの展望をお聞かせください。
HUMAN CHESS を世代を交えながら,制作していきたいと思っています。今回会場に来て頂いた方に,自分が子どもたちや次の世代に何が残せるか。また環境とか平和についての思いなどを書いてもらってるんです。様々な方々からメッセージが頂けたらいいなと思っています。
〜29日(土)まで。
(c)MIMASU AKIKO