一貫して顔を塗りこめて表情がみえない人物像を描いている夏目麻麦。
作家は「物語の一部を切り取ったようだといわれるが、私の絵に物語はありません」といいます。「顔のパーツを描く事がいとわしかった時期に、街で魂が抜けたようにベンチに座っている人をみました。そのとき、ああ、顔をかかなくてもいいのだ。顔、形など無くて、ただそこに居るだけでいいのだと納得したのです。忠実に人物の形を写しても、それほど正確に描けない。だから目に映っている感じを画面に写し出せればいいなと思っています。」と話してくれました。
奇をてらわない人物像、どちらかというとそのマチエールは油彩の先人たちを思い起こさせます。
しかし確実に現代の私たちに深く突き刺さってくる、現代の絵画でしょう。
それは夏目が意図するこの一枚の一瞬で、とらえてみせるといった描き方によるものだろうと考えられます。
深い色あいを出す為に、何度も何度も塗り重ねる為、非常に遅筆な作家であるのに、
写真のように瞬間を切り取ろうとする行為、そういった相反するものがこの作家に多くの人がひかれる理由の一つだろうと思います。
今回はすべてタイトルに「M」がはいります。
イニシャルMは不特定多数のMさんです。
MはMadam, Miss, Mademoiselle , Muse Music,Movie,Muse
などMには女性や芸術に関する名詞が多いことに気づいて、Mと名づけました。
新作10数点が並びます。どうぞご高覧下さい。